在学生

【院生紹介】JSPS特別研究員インタビュー(崔夏爛さん)

OSIPP博士後期課程に所属する崔夏爛さん(D2)にインタビューを行った。研究者を志した経緯やOSIPPを選んだ理由、研究者を目指す後輩達へのメッセージなどを語ってもらった。

―はじめに、研究者を志した経緯について教えてください。

崔さん:「研究するのが楽しく、好きなことを仕事にしたい」との思いから研究者の道を志しました。学部卒業当初は就職して働きたいという気持ちが強く、韓国の企業で2年間働いていました。しかし、仕事を続けていく中で1つの分野のスペシャリストになりたいという気持ちが漠然と湧いてきました。そこで、学部生時代の交換留学の経験から日本外交についての知見をより深めたいと思い、韓国の大学院へ進学することを決めました。研究者への道を本格的に目指すようになったのは、韓国で修士論文を執筆した後に研究の楽しさがだんだん分かるようになってきたからです。

―それでは、日本の大学を選んだ理由について教えてください。

崔さん:独創的な視覚を持ちながらも緻密な分析を行うことが多い日本特有の研究スタイルが大好きだったからです。交換留学の時には戦前の日本外交史ゼミに所属し、外交史の研究手法を学んだことがありました。韓国の大学院では戦後の日本外交、特に「東アジア共同体」構想をはじめとした日本の地域主義に興味がありましたが、日本外交史ゼミでの経験と日本の国際政治学者による先行研究は修士論文の執筆に大変役に立つものでした。そこで、自分の研究を外交史や国際関係論の観点から深めるならば、日本の大学の方がより自分が好きなスタイルの研究ができると思い、当初は国費留学生として日本に来ました。

―その中で、OSIPPを選んだ理由について教えてください。

崔さん:はじめの1年間は研究生として、OSIPPで過ごしました。その中で、国際関係理論の専門家であった当時の指導教官の影響もあり、国際関係論の観点から研究を進めていきたいという気持ちが強くなっていきました。国際関係論を理解するには政治学のみならず、ミクロ経済学や計量経済学、そして国際法といった様々な分野の知識が必要となります。OSIPPでは様々な分野(政治、経済、法学)のコースワークができるという環境が整っていて、これは私がOSIPPを選んだ理由の一つでもありました。実際に私は修士の一年次に政治、経済、法学の全ての講義をとり、そのことは修士論文だけでなく博士の研究においてもとても役に立っているので、OSIPPを選んで良かったと思っています。

―崔さんの問題意識や研究内容について教えてください。

崔さん:私はもともと東アジア共同体構想に興味があったので、地理的に近い国家同士がまとまろうとする政策である地域主義、なかでも東アジアの地域主義に関心を持っています。この東アジア地域主義の大きな特徴の一つは、ASEANを中心とした広域枠組みが制度として数多く存在していることです。通常、地域機構というものは大国が主導することが多いですが、なぜか東アジアでは中小国の集団であるASEANが中心的な役割を果たしています。私はこの「ASEAN中心性」と呼ばれる非常に興味深い現象はなぜ起きるのかに問題意識を持ちながら研究を続けてきました。OSIPPでの修士論文は、ASEANのシンボルである東南アジア友好協力条約(TAC)への中国、日本、そしてアメリカの加盟プロセスを分析し、域外国のTAC加盟はASEANによる主体的な外交戦略の成果であったと主張するものでした。

JETROへも訪問した

―崔さんは大阪大学国際公共政策学会の査読誌『国際公共政策研究』にも論文を寄稿していますよね。

崔さん:そうですね。修士論文の研究をまとめて、リバイスし、「ASEANによる東アジア地域秩序の形成 : 東南アジア友好協力条約(TAC)の拡大プロセスの分析から」という題にて『国際公共政策研究』に投稿しています。

―さすがですね。それでは博士論文についてもお聞かせください。

崔さん:修士論文で分析したASEAN中心性を動態的に捉えた上で、ASEAN中心性の発展過程やその形成要因を明らかにする博士論文を計画しています。より詳しくは、ASEAN中心性の要因としての「域外国」の役割に注目しながら、日米の外交文書などの一次資料を丁寧に扱う手法を通して、冷戦期の1970年代後半から冷戦後の2010年代までのASEAN中心性の変動を通史的に分析する論文を書こうと思っています。その一環として、2019年12月にはアメリカのメリーランド州にある国立公文書館(NARA)のアーカイブ2にて資料収集を行いました。

―最後に、研究者を目指す後輩達へのメッセージをお願いします。
崔さん:OSIPPは、学生間の関係がオープンで仲が良く、一緒に目標を共有して頑張れるという強みがあります。博士課程に進学すると、自分の研究については自分が一番理解しているのは当然で、その意味ではたとえ研究で躓くことがあっても、最終的には自分の力で解決することになります。辛いことも多いですが、そこに向き合って解決策が見えてきたときの楽しさ、嬉しさは格別です。OSIPPには素晴らしい先生方や仲間たちがいて、先輩や後輩からも刺激を受けながら勉強ができる環境にあります。こうした環境は、研究に取り組む上で大きな支えになると思います。

―本日はありがとうございました。

(OSIPP博士前期課程 佐藤由基)