【院生投稿】上砂考廣さん(OSIPP博士前期課程)
2016.5.27
「国創りを学び、体感し、仕事にする」
■OSIPPへの入学
私は国際公共政策研究科(以下OSIPP)で東ティモールとインドネシアのナショナリズムを研究してきました。第三世界における国創りを思想的なレベルで分析することを専門にしています。学部で政治思想、政治理論一般を学んできた私は、第三世界の国家論に関心を持つようになり、現地調査を含めたより深い研究をしたいと考えOSIPPへの進学を決めました。というのも、当時OSIPPでは東南アジア諸国の大学との交換留学制度が設けられており、その制度を利用した現地調査が可能だったからです。在学中は、政治理論から国際関係論、計量経済学と多岐にわたる分野の講義を履修しながら、研究を進めていました。クラスメートもアジア・アフリカからの留学生が多く、よく授業の後にみんなで昼食を食べたり、飲みに行ったりもしていました。希望通り東ティモールで5ヶ月、インドネシアで1ヶ月の現地調査にも従事することができ、忙しくも充実した大学院生活を送ることができました。(左上写真:院生仲間と一緒に)
■OSIPPでの研究と就職活動
修士1年の夏から半年間、東ティモールに渡って研究調査を実施する機会に恵まれました。国創りの真っただ中にある東ティモールでの研究生活は予想以上に刺激的なものでした。現地で活躍する国連職員、外交官や開発コンサルタントの方々とお会いする機会も多々あり、研究を通じて、元活動家や大臣、副首相へのインタビューにも成功しました。この滞在で、途上国の国創りを肌で感じると同時に、その国創りを一線で支援する日本人の方々から多くの刺激を頂きました。そして、自身の進路についてそれまで以上に真剣に考えるようになりました。入学当初、私は、研究職と民間企業への就職のどちらを選択すべきか決めかねていたのですが、現地で途上国の国創りに携わる実務家の方々の活躍を直に目にして、自分も実務的な方面から途上国の国創りに携わりたいと強く思う様になったのです。(右上写真:東ティモールの活動家と一緒に)
こうして帰国後、就職活動をすることになりました。開発業界への新卒での就職は狭き門であったこともあり、主に重工業、インフラメーカー、商社といった途上国でのビジネスに携わる大手企業を中心に受けていました。就職活動解禁後は、OB訪問や企業セミナーに参加して情報を集め、分からないながらも文系院生の就職活動で何を求められるかを分析するように努めました。企業面接では、自らが東ティモールで経験したこと、そこで得た知見などを中心に伝えていました。経歴が特異なので、中には敬遠される企業もありましたが、私の思いを親身に汲んで、大変評価して下さった三菱重工業株式会社に出会い、内定を頂くに至りました。
研究の方も就職活動の合間を縫って少しずつ進め、昨年7月には東ティモールで行われた国際学会での報告を経験しました。実際、就職活動をしながら、研究を進めるのは容易ではありませんでした。私の場合、内定を獲得したのが8月中旬だったので、論文を書き始める直前まで、研究と就職活動を同時に進めなければいけませんでした。しかし、このことが逆に、就職活動に対して近視眼的にならずに、一歩距離を置いて取り組むという姿勢に繋がったと思います。周りに流されずに、自分の芯をしっかり意識して、ある種腰を据えて就職活動を進められました。おかげで、研究科の優秀論文賞と希望していた会社の内定という2つの目標を同時に達成することができました。
■就職活動を終えて
就職活動を終えた今、改めてOSIPPで学び、研究に打ち込んだこの2年間が比類なきものであることを実感しています。なぜならそれは、OSIPPが学問の世界のみならず、実社会でも必要な素養や思考力を育む最高の場であったからにほかなりません。研究や講義を通じて磨いた論理的思考力、構想力は実社会でも大いに求められるものですし、外国人留学生との英語でのディスカッションは、単なる英語力の向上のみならず、自身の価値観を再構築し、より広い視野を獲得するのに最良の機会となりました。
また、OSIPPでの日々の院生生活それ自体も、非常に変化に富む刺激的なものでした。法・経・政の隔たりを越えて議論する環境や、公官庁やNGO、民間企業でキャリアを積まれてきた方々と共に学ぶという環境は、学部では得られないものでした。このような環境で、学問と実務のバランス感覚を養うことができたと私自身感じています。これは、実務の視点からの研究を奨励するOSIPPならではのものでしょう。
さらに、東ティモールへの留学はこの上なく貴重な経験でした。「復興から開発へ」と大きく舵を切ろうとするその転換期の東ティモールに半年間身を置いた経験は、他の何物にも代えがたいものでした。それは、なぜ学ぶのか、なぜ働くのかという根本的な問いを改めて自分の中に設定し、それらの意味を再確認する機会となったのです。私の場合、そうした思索の結果、研究ではなくて、ビジネスを通じて国創りに携わるという目標を設定することができました。(左上写真:東ティモールでの学会発表時)
そうして就職活動を経て、明治以降の日本の国創り、産業化を一線で担ってきた三菱重工業に内定を頂くに至りました。4月からは、ITS(高度道路交通システム)の営業職として勤務することになっています。途上国や新興国で需要があるこのITSを通じて、途上国・新興国の開発、国創りに携わるのがこれからの私の仕事となりそうです。
研究職としてのみならず、実務家としての活躍を目指す方々にとって、OSIPPは最良の研究科となると私は信じています。十人十色の将来ヴィジョンを描く仲間たちと共に過ごす2年間はかけがえのないものとなることでしょう。
※上砂さんは、2016年3月にOSIPP博士前期課程を修了されましたが、 この記事はOSIPP在籍時に投稿されたものです。