2014.10.8
Arend Lijphart, Democracy in Plural Societies: A Comparative Explanation, Yale University Press, 1977
冷戦後に続発した民族間の武力紛争に衝撃を受けたことが研究を志すきっかけの一つとなったという中内講師は、現在も、多様なアイデンティティに引き裂かれる社会が安定的に運営されるために望ましい民主主義のあり方やその実現方法を研究テーマの一つとしている。
中内講師が大学院時代に、研究の方向性を決める上で大きな影響を受けたのが本書である。本書は、民族など様々なアイデンティティに引き裂かれる社会を民主的にかつ安定的に統治する方法を、多数派と少数派の大連合、区画の自治(連邦化など)、比例制、相互拒否権付与、の四点に大胆に整理し、これらを体現する民主主義を「多極共存型」として定式化する。著者は、オランダ生まれのアメリカの政治学者で、かつてはアメリカ政治学会の会長も務めた人物である。
発表以来、この研究は多数の批判を受けており、定式化された多極共存型民主主義が適合しない事例も多いことは明らかである。それでも、本書は発表後30年以上を経過した現在でも多民族社会の民主主義を考える上で議論の出発点となっていると中内講師は語る。
よく「民族問題は日本人には理解できない」と言われるように、日本=単一民族国家とする神話は、異なるアイデンティティを有する人々の存在に対して日本人の思考停止をもたらしてきた。しかし、最近は在特会の問題がクローズアップされているように、日本社会も真剣に多極化に向きあわなければならない時代を迎えたと中内講師が感じている。
本書の筆者は、理論的に多極共存型民主主義を唱えるにとどまらず、南アフリカを舞台に、実際に自分の理論の導入を積極的に働きかけて影響を与えた。「OSIPPの特徴は、理論を学ぶ場合でも実際の政策との関係が常に念頭にあること。本書の筆者のように、批判されることを恐れずに学んだことを実際の社会に活かすことを考えてほしい」とOSIPP生にメッセージを送った。