セミナー・シンポジウム

「誰一人取り残されない社会を構築する:車椅子ヨガ・インストラクターからのメッセージ」(阪大×国連 未来社会フォーラム)開催

2023年9月13日、大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)ESGインテグレーション研究教育センター(ESG-IREC)主催により、山岳転落事故で車椅子生活になりながらもヨガ・インストラクターとして自立をし「アクセシブル・ヨガ」の指導者として世界で活躍するロドリゴ・ソウザ(Rodrigo Souza)氏をゲストに迎え、「誰一人取り残されない社会を構築する:車椅子ヨガ・インストラクターからのメッセージ」と題し、第1回となる「阪大×国連 未来社会フォーラム」が開催された。

同イベントは、大阪大学の医学系研究科や人間科学研究科など関係部局を横断し、国連訓練調査研究所(UNITAR)などとの共催、民間企業の協力のもと、大阪大学中之島センターの佐治敬三メモリアルホールを会場に、大阪大学公式YouTubeチャンネルからも同時配信する形式で実施された。

プログラムは、まず、全体司会にあたった星野俊也大阪大学名誉教授(国連システム監査官・元国連日本政府代表部大使・ESG-IREC創設ディレクター)より、2023年が2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標達成年とされる2030年までの折り返し点となり、「誰一人取り残されない世界の実現」というSDGsの基本理念を改めて想起して具体的な活動を加速化する必要や、企業がよりよい世界の構築に主体的に取り組むESG(環境・社会・企業統治)の推進にあたり、すべてのステークホルダーの人権を重視し、多様性を力に人々が潜在力を最大限に発揮できる公正で包摂的な未来社会の形成に向けた気づきを促すという本企画の趣旨説明から幕を開けた。

次に山本べバリー・アン大阪大学理事・副学長(大阪大学ユネスコチェア代表)からは本イベントが「包摂的な社会」のあり方や「健康」の意味の拡大に向けてイマジネーションや研究を広げる上できわめて重要であり、特に「何かできないことにではなく、何かできることに集中する」必要性が強調された。

イベントでは、ルイス・ガジェゴUNITAR評議会議長、アクセシブル・ヨガ・アソシエーションのジヴァナ・ヘイマン代表、車椅子の経営者でユニバーサル・デザインやユニバーサル・マナーの普及を進める株式会社ミライロの垣内俊哉社長からの特別ビデオメッセージが紹介された。

ソウザ氏による特別レクチャーでは、ジョークを交えた和やかな雰囲気の中、事故で脊髄を損傷し、車椅子生活を余儀なくされながらも、リハビリのメニューがヨガのポーズに通じることを発見し、障がいがあっても、どんな体でもヨガを通じて心身を調えることのできる「アクセシブル・ヨガ」を実践し、自らもインストラクターとなり、スウェーデンのNGOでの活動では同じく事故などで障がいを負った人々の社会復帰に力を貸していることなどが熱く紹介された。

続いてソウザ氏によるヨガのデモンストレーションとレッスンが行われ、ホールでは元DJである同氏が選曲したBGMを背景に、車椅子での参加者を含む70人ほどの聴衆が一体となって座ったままでも心身を調えることのできるヨガを体験した。ソウザ氏の声の響きや醸し出す雰囲気は、内にある情熱を反映しつつも、どこか人を落ち着かせるものがあり、同氏の紡ぐ言葉や動作に会場全体が引き込まれていた様子であった。そうした状況は写真だけでは伝えきれないため、大阪大学公式YouTubeチャンネルのアーカイブをぜひ視聴していただきたい。

休憩を挟んで行われたラウンドテーブル・ディスカションでは、モデレーターである中田研教授(大阪大学医学系研究科)の司会のもと、伊東亜紀子先生(ESG-IREC招へい教授、国連経済社会局国連障害者権利条約事務局チーフ)、星野千華子氏(アクセシブル・ヨガ・アンバサダー、国連SRCヨガクラブ公認インストラクター・RYT500)、中野陽子氏(アクセシブル・ヨガ・アンバサダー、アートラウンジクリニック院長)、山中浩司教授(大阪大学人間科学研究科、大阪大学ユネスコチェア副代表)、谷野雅紀氏(J-Workout株式会社COO)、ソウザ氏、山本理事・副学長、星野名誉教授らを交えて「誰一人取り残されない社会を構築する」ための課題や展望について議論した。質疑応答も活発で、様々な形で活躍されている車椅子生活の方々の実体験に基づく発言や企業の方々、ヨガをされている方々からのコメントなど、会場の参加者を交えた議論が展開された。

プログラム終了後には、同センター2階カフェテリア・アゴラにて情報交換会が実施された。

今回のフォーラムは、SDGsの実現や多様性・包摂性の促進、グローバルな健康・スポーツ研究教育の推進といったテーマに取り組む学内の研究科や機関が垣根を超えて連携したのみならず、国連機関や企業、障がい者の方々の協力によって実現した画期的な催しであった。ディスカッションにおいて「誰一人取り残されない社会を構築する」ためには、まずは各人が「自分が年を取った時」や「突然障がい者になった時」を想像して、自分事として捉えることが重要であることが強調された。実際に障がいを持つの方々の意見を聞くと、「健常者が考える『障がい者が生きやすい社会』」と「障がい者が考える『真に生きやすい社会』」には乖離があることが分かり、障がい者の方々の生の声をより取り入れることのみならず、健常者側がさらに想像力を働かせる重要性を痛感した。今回のような社会の多様性が凝縮された空間は、多くの人に気づきや新たな可能性を考える機会となる場であり、このようなイベントが今後も継続して開催され、さらに社会に広まっていくことを期待したい。

*なお、本イベントは、大阪大学サイバースポーツコンプレックス(CSC)事業(AIやサイバー空間を活用し、スポーツを安全安心に行うために蓄積されてきた研究成果をスポーツ選手だけでなく若者、高齢者、障がい者を含め誰もが活用できるようにすることで健康な社会づくりを目指す事業)の第6回シンポジウムとの併催で実施された。

(OSIPP博士後期課程 平野 歩)