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【院生紹介】Gong Bingyiさん(OSIPP博士後期課程)

【院生紹介】Gong Bingyiさん


今回は、OSIPP博士後期課程のGong Bingyiさんにインタビューを行いました。Gongさんは政治学の分野でアメリカと中国の技術貿易に関する歴史研究をしています。このインタビューでは、研究内容や手法、OSIPPでの学生生活について伺いました。
(写真:住吉大社にて・2023年4月撮影)

 

経歴

私は中国で日本語と文学の修士号を取得後、2年間京都大学で研究生として勉強し、関心のある研究分野が近い南和志准教授(現在の指導教員)が在籍するOSIPPの博士後期課程(以下、博士課程)に進学しました。もともとは、国際関係論における“global commons(地球上に特定の所有者がいない天然資源または公共領域)”の1つとしてサイバー空間に興味を持っていました。しかし、日本では歴史研究の方が盛んであったため、科学技術に関連する歴史研究をすることにしました。また、英語と日本語の勉強を長年続けていたので、その語学力を活かすためにも多言語の文献・史料を読む研究アプローチを選びました。

 

研究内容

テュレーン大学 アメリカ外交史学会での口頭発表(2022年6月撮影)

私は、アメリカとその他の西側諸国(東西冷戦時の資本主諸国)間での競争・協力が、アメリカと中国の技術貿易に与えた影響について研究しています。特に注目しているのは、アメリカの中国に対するコンピューター技術の輸出です。西側諸国は、冷戦時に対共産圏貿易統制を策定し、工業の生産力も軍事力も向上させるコンピューター技術などの先端技術の中国への輸出を統制していました。1970年代に入ると、米中両国が国交正常化の交渉を行いながら、先端技術の2国間貿易を活発化させようとしていましたが、対共産圏貿易統制の影響でアメリカは他の西側諸国の合意なしでは中国との貿易を行うことができませんでした。同時に、日本やフランスなどその他の西側諸国も先端技術を中国に輸出しようとし、アメリカの輸出競争相手となりました。したがって、アメリカとその他の西側諸国は、対中技術輸出において競争しながらも、貿易を容認することで協力をしていました。

この研究では、一般的に非政治的であるとされる科学技術の政治性に着目し、中国と西側諸国の技術貿易が国際関係に与える影響を分析しています。西側諸国の競争・協力の実態を明らかにすることで、科学技術の流通と世界秩序の変動との複雑な関連性を明らかにしたいと考えています。そして、冷戦期の米中技術貿易の理解を深め、冷戦史と米中関係史の研究に貢献したいです。さらには、科学技術の広がりと国家間の政治関係が互いに与える影響を研究することで、特定の時代や地域を超える普遍的な規則性の発見を目指します。

 

研究方法

イギリス国立公文書館(2023年8月撮影)

私はマルチ・アーカイブ・リサーチという多言語の文献・史料を分析する方法で研究をしており、分析の対象は主として英語、日本語、中国語で書かれた一次資料です。そのため、世界各地の図書館や資料館を実際に訪れて、様々な言語で書かれた公文書や外交訪問の記録、貿易の記録などの資料を収集しています。博士課程2年次には、アメリカに初めて研究調査に訪れ、ニューオリンズやカリフォルニアに滞在しました。

 

アメリカ国立公文書館(2023年6月撮影)

博士課程3年次の今年の夏休みは、アメリカのアナーバーとワシントンD.C.を訪れ、また、イギリスと中国にも調査に行きました。歴史研究における資料収集では、まるでその場にいるかのように時間をさかのぼって色々な人物と文献上で出会い、彼たちの性格や人間性を感じることができてとても面白いです。この過程で、過去の外交政策の記録と、現在世界で起こっていることとそれらへの対処の仕方を比較し、現在の社会の課題と進むべき道について考える機会になります。また、調査では実際に思いがけず面白い資料を見つけて次の研究テーマのヒントを得たり、私と似たような関心を持つ研究者と出会えたりすることもあります。

 

OSIPPでの生活

レーガン大統領図書館から帰宅中に撮影     (カリフォルニア州シミバレー・2022年6月撮影)

OSIPPに入学する前は、自分が研究を続けていけるのかどうかとても不安でしたが、所属する南研究室の自由な雰囲気や先生・同級生のサポートのおかげで、徐々に自信がついてきました。現在は一人前の研究者になるという自分の目標に向かって、どのようなテーマについて調査を行い、どの学会に参加するか、いつ論文を投稿するかなど細かく予定を立て、自分の研究の進捗に合わせて一つ一つこなしています。例えば国内外のアメリカ研究や歴史研究の学会やワークショップで発表をしたり、論文の査読を受けたりしました。また、周りの人々から様々なサポートを受けています。指導教員の南先生は、私の論文や研究助成に関する申請書などに貴重な意見をくれたり、海外調査の事前準備について助言してくれたりと、大変お世話になっています。さらに、指導の過程で「小さなことが成功と失敗を決める」、「簡潔な言葉で重要なことを話す」といった重要な教訓を教わりました。また、OSIPPの学生をはじめ世界中にいる博士課程の友人たちとも、研究に関する経験や情報を共有したり、論文執筆のための支援グループを作ったりすることで、お互いに精神的に支えあっています。このように自分の関心のある研究を思う存分できる環境で、充実した博士課程を過ごしています。

 

将来について

ある先生の「研究をすることはジャングルでの冒険のようなものだ」という言葉が印象的で、日々の研究活動でそれを文字通り実践したいと思い、大学院に入学しました。実際に、世界各国の図書館・資料館で膨大な量の文献や史料を調査するのはジャングルで冒険しているようでとても楽しく、人生に対する情熱が溢れている瞬間であると感じます。これからは論文を書くことでさらに思考力を磨き、自分の新しい一面を発見していきたいです。そして博士号取得後は、大学または研究所において、引き続き中国と西側諸国との政治・経済・科学技術上の関係を研究したいと思います。

(OSIPP博士前期課程 池内里桜)

那須高原にて(2022年11月撮影)