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【研究紹介】小原美紀教授「研究の楽しさを共感したい」

【研究紹介】小原美紀教授「研究の楽しさを共感したい」


シリーズ「研究紹介」では、OSIPPに在籍する先生方の最新の研究を紹介しています。今回は、労働経済学および応用計量経済学が専門の小原美紀教授にインタビューしました。
(写真右:小原先生・左:筆者、小原先生の研究室にて)

 

 

最近はどのようなテーマに関心を持たれていますか?

企業と求職者のジョブマッチングにおいて、企業内の多様性が高まると、どういった良い効果があるのかということに関心があります。企業が多様性を重視しているとアピールすることで、その企業に関心を持つ求職者が増え、結果的に良いマッチングを実現できると考えられるからです。

多様性の例として、例えば社内の女性比率がありますよね。社内の女性比率が高いことをアピールすれば、より多くの女性の求職者に興味を持ってもらうことができます。さらに、そうした先進的な取り組みを行える企業である、というメッセージにもなります。結果的に、男性の求職者からの応募も増えるかも知れません。

あるいは、社内の障がい者比率や外国人比率はどうでしょうか。社内で共に仕事をするという観点から言えば、障がい者・外国人ともに何らかの配慮が必要であるという点で共通しています。健常な社員、日本人の社員が彼ら・彼女らに配慮することが、社員全員にとって望ましい職場環境の実現につながるということは考えられないでしょうか。

(キャリアフェアでの写真、左から3人目が小原先生)

実際にジョブマッチングの現場では、多様性が見られる企業ほど、求職者が関心を持っていそうだと感じています。毎年2月に、シンガポールでASEAN諸国の外国籍人材と日本のグローバル企業をつなぐキャリアフェアが開催されています。会場には企業ごとにブースが設けてあって、各企業の担当者が4,5人のグループでリクルーターとして並んで対応します。各企業とも、どんなリクルーターが並んでいるのかは全く違います。年配の男性が多数を占める企業があれば、全員若い女性が並んでいる企業もあります。各企業とも、リクルーターは時間交代制です。実際に確認をとりましたが、交代するとき、次にどのリクルーターが立つかは何らかの意図なく決められていました。

そこで、私たちは求職者が一番多く並ぶのは、どんな性別・年齢のリクルーターがブースに並んでいるときなのかを確認してみました(全部チェックしたんだよ!)。そうすると、ばらばらの組み合わせ、つまり男性もいれば女性もいて、年齢層もばらばらな企業が一番人気でした。だから、やっぱり多様性は求職者側から見ると大事なんじゃないかな、と感じました。

 

それは面白いですね。先生にとって、研究の魅力は何でしょうか?

 時間や労力を費やして分析しても、有意な研究結果がでることは、ほとんどありません。あるいは、結果が出ても予想と真逆の結果だったりする。でも、そういう時こそ考えるチャンスです。それが楽しい。なぜこういう結果が出たのかという説明はいくらでも考えられます。

例えば、なぜこういう研究結果が出たのかを考えたときに、個人の規範(社会的に望ましいとされる、人々の態度や行動のこと。)が時代とともに変化したからと考えられるときがあります。ただ、「規範が変わったから」と説明するだけでは研究になりません。本当に変わったのか?規範や価値観のようなものが変化していなくても起こる結果ではないのか?と吟味する必要があります。そのために、まずは規範のようなものは時間が経っても大きく変わらないと仮定し、瞬時的に起きる環境変化のようなものが個人の行動を変えた可能性を探ってみる。規範のようなものはデータでは観測できないことが多いので、これらは時間がたっても変化しないと仮定した方が統計分析上扱いやすいという利点もあります。

しかし、このような仮定で検討してもどうしても説明できないことがある。その場合、次に考えるのは、この仮定で正しいか、規範や価値観の変化を取り入れないと説明できないのではないか、です。例えば、夫婦の価値観を考えてみましょう。結婚した頃は同じような価値観を共有していた。でもそれぞれが長い期間仕事をしていれば、職場で見聞きしたことや体験したことから、価値観が変わってくるかもしれません。あるいは近所づきあいを通して価値観を揺さぶられるとか。こうして見てみると、規範は時間がたっても変化しないと考えるのは無理があるのではないでしょうか。

このような仮定への違和感は、学部生時代に初めて経済学を習ったときから感じていました。「まずこれを仮定して…」という授業での説明に疑問があった。私がなぜみかんより、りんごを好んで消費するのか。その判断基準には私の“りんご愛”とか、価値観とかが入っているかもしれない。でも、そういうものはテキストで紹介されるモデルから捨象されています。

一方で、実際に論文を読んでみると、研究者たちは教科書通りのモデルを作っているわけではありませんでした。価値観が大事だと思う研究者は、それをモデルに組み込んで分析しています。そこが面白いと思った。ちなみに、私の大学院生時代の指導教官は、私がオフィスアワーで質問する“モデルへの違和感”を面白いと言ってくれました。そして「だったらその仮定を緩めて考えてみたらいい、そうしたら研究になるよ」と教えてくれました。

 

研究はもっと自由だということが伝わると良いですね。
小原先生は学生に強く留学や大学院進学を勧める印象がありますが、その背景にある思いを教えてください。

本当のことを言えば、(私が指導する学生だけでなく)全ての学生に留学して欲しいし、全ての学生に大学院に進学して欲しい。特に大阪大学の学生はそうだけど、みんな計画的に生きすぎていると思います。4年間で学部を終えて次は就職、という風に。きっと、これまで小さなステップを自分で設けてクリアするという事を何度も繰り返してきたからだと思います。でも、大学以降の勉強は、横のつながりが大事です。同じ分野の中で繰り返す(例えば、高校の勉強は数学なら数学、英語なら英語というように一つの分野の中で繰り返し練習する)というより、分野を横断して広い視野で見ていかないといけない。だから、もっと寄り道していいと思います。

 小原先生、ありがとうございました。

 

先生からは、もっと大人になりなさい、もっと柔軟に生きなさい、ということを学部生の時から聞かされていました。今回のインタビューでも、試験が難しいならその年はできるところまでやってみて、その代わり来年もっと理解を深めて習得してやろうというくらいの度胸があっていい、というお話を聞きました。私にも型にはまった「良い子」たろうとする一面があります。学生生活はそれを崩し、柔軟性を身につける良い時間なんだなと感じました。

(OSIPP博士前期課程 久保知生)