2023年度口頭報告審査会および博士論文進捗状況報告会
2024.1.16
2023年度口頭報告審査会および博士論文進捗状況報告会
2023年12月7~9日、博士前期課程(修士)・博士後期課程(博士)論文の「2023年度口頭報告審査会および博士論文進捗状況報告会」がオンライン形式で開催された。
(写真:河畑波恵さんの発表の様子)
口頭報告審査会では、修士号申請者35人と博士号申請者4人が自身の学位論文の内容を発表し、博士論文進捗状況報告会では、13人の学生がそれぞれの博士論文について、これまでに仕上がっている部分の内容と今後の研究計画を報告した。
博士前期課程2年次である久保知生さんは「女性候補者の勝利がその次の選挙での候補者の性別に影響があるのか」という、日本の政治において多様性を確保するうえで非常に重要な問いに挑んでいる。分析の上では「最後の1議席にぎりぎりで女性が当選した場合と男性が当選した場合において、次回の選挙での候補者を比べる」という着眼点で、特定の関数形を仮定しないノンパラメトリック回帰不連続デザインと呼ばれる統計手法を用いて「女性候補が勝利した選挙区では、次回の選挙で非現職の女性候補者が擁立されやすい」という統計的因果効果に迫った。久保さんは、発表終了後に13人という大勢のギャラリーが見守る中、主査や副査からの内容や統計手法に対する質問に一つ一つ丁寧に回答していた。
博士前期課程2年次の河畑波恵さんは、米国でアジア系女性として育ち、性別や民族的所属による偏見を持たれたという自身の経験から、“マイノリティ”にあたる、非白人で女性であるカマラ・ハリス氏が副大統領に選出された際の選挙を、社会の鏡となるメディアはどう報道しているのかに関心を持った。そこでCBSとCNNの膨大な選挙報道のデータを収集し、丁寧に比較分析をした。その結果、2020年アメリカ大統領選挙において、性別および民族的所属に関する報道はハリス候補の報道の5分の1を占めたのに対し、“マジョリティ”に当たるジョー・バイデン候補(2008年)やアル・ゴア候補(1992年)に関する報道ではゼロだったことを示した。また、いずれの候補者についても、候補者の政治思想や政策に関する報道は15%以下にとどまっていたことから、河畑さんは修士論文を通して選挙報道のあり方を問い直している。報告会を終え、河畑さんは「先生方に良いアドバイスを頂けたので、それを元に修正していきたいと思います!」と清々しい笑顔で語った。
博士後期課程2年次のElizaveta Kugaevskaiaさんは “Time Zones and Voting Behavior: Evidence from Russia” というタイトルで現在進めている研究の進捗を報告した。タイムゾーンの境界線を挟んだ地域では、日の出と日の入りは同じタイミングであるにも拘らず、線の東西もしくは南北の地域でその時刻は異なる。Elizavetaさんはこのことが起床時間、睡眠の質、気分などに影響して投票率や右派・左派など党派ごとの得票率にまでも影響があるのではないかと考えた。そこで、世界で最も多くのタイムゾーンを持つ国であるロシアを舞台に、地理的データを使った空間回帰不連続デザインという近年経済学で利用され始めたばかりの方法を用いて取り組んでいる。Elizavetaさんの発表後、主査と副査からは結果の解釈やそのメカニズム・先行文献に至るまであらゆる角度からのコメントが寄せられ、予定時間を20分超過するほど白熱した議論が行われた。そして最後に、今後の博士論文執筆や研究会での発表に向けて行うべき分析の方針を確認した。
今年3月に修了予定の学生は、今回の審査委員からのアドバイスを踏まえて加筆修正した学位論文を1月上旬に提出する。その後、学位論文の審査と教授会の決定を経て学位が授与されることになる。
(OSIPP博士前期課程 辻本篤輝)
※今年度の修士論文提出は2024年1月9日提出でした。