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【卒業生近況】 藤崎航太郎さん
University Collage London博士課程 在籍

【卒業生近況】 藤崎航太郎さん
University Collage London博士課程 在籍


2023年度にOSIPPで修士課程を修了し、現在はUniversity Collage Londonの博士課程に在籍している藤崎航太郎さんを取材しました。(写真:ウィンブルドン選手権の会場にて)

 

なぜ現在の進路に進もうと思ったのでしょうか?

まず私の経歴として、2020年9月からLondon School of Economics(LSE)に2年間在籍しました。2022年9月からはUniversity College London(UCL)の博士課程に在籍し、労働・開発経済学の実証研究を行っています。OSIPPには2020年4月から在籍し、LSEの夏休みにあたる4〜9月の期間を利用してOSIPPの博士前期(修士)課程を修了しました。

大学院進学のきっかけは阪大国際公共政策学科3年次の頃まで遡り、国連開発計画のインドネシアオフィスで約半年間インターンをした経験にあります。国連職員のポストは基本的に修士号が要件となっており、イギリスの大学で開発系の修士号を取得している同僚が多かった環境に感化され、将来は修士号を取得し、自身の専門性を活かせるキャリアを築こうと考えるようになりました。また、当時は海外インターンや留学での異文化交流を通じて、移民の経済的・社会的影響に関心を持っていました。そのため、移民政策に関する実証研究が盛んな海外の大学の修士課程へ進学することを決意しました。

博士課程への進学を考え始めたのは、LSEの修士課程が始まる前に、OSIPPで経済系科目の予習を進めていた時期でした。この頃に論文を読んだり、教員やOSIPP生から進行中の研究について聞いたりする機会や、自分が書いた学士論文や研究計画書へのフィードバックを貰う機会が増え、研究という営みをより身近に感じ、私もそれに携わりたいという思いが強まりました。また、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)について耳にすることが多くなり、学術的研究によるエビデンスが社会に還元されるプロセスをより高い解像度で想像できるようになったことも手伝って、「海外の博士課程は金銭的支援が手厚いから食いっぱぐれる心配もなさそうだし、20代の間は研究に没頭してみよう」と考え、博士課程での留学を志しました。

 

現在の研究内容とその魅力や面白いところ、大変なところを教えてください。

The Paris School of Economicsでのポスターセッションにて(左側が藤崎さん)

今進めている研究では、1970年代のインドネシアにおける、小学校の授業料無償化の効果が、受益者の特性によって大きく異なった事例を取り扱っています。一般的に授業料の無償化は、特に貧しい家庭の多い農村部を中心に、就学率を上げる効果が期待できます。インドネシアの場合、男子児童については予測通りの分析結果が得られたのですが、女子児童については農村部での政策効果が小さく、都市と地方間の教育格差がむしろ開いたことが分かりました。農村部の労働集約的な産業構造に加え、農村部の保守的なジェンダー規範が、女子児童への教育の普及を妨げている可能性を分析・議論しています。

この研究に関するデータは充実していますが、それでも分析結果がどのようなメカニズムを経て出てきたものかを検証するには、理論的なモデルを考えたり、複数の分析を組み合わせたりする必要があります。特に、途上国特有の文脈を経済学的な研究に取り入れるときは、文化的背景も含めて慎重に下調べをしなければならないので、難しいこともありますが、多くの学びがあります。

研究はやりがいがあって楽しいのですが、博士課程1年次の進級試験は落第する学生が毎年一定数おり、追試も無いため、精神的にやや過酷でした。また、現在終えようとしている博士課程2年次も、自分の論文を国際学会で発表する、査読誌に投稿する、研究資金を調達する、少人数授業を教えるといった新しい体験続きで、ちょっとした緊張や不安は多かったです。一方で、そうした一つ一つの仕事にも慣れてきたり、同期との仲も深まっていったりと、残りの博士課程生活への期待も高まっています。

 

OSIPPではどのような生活を過ごされたのでしょうか?

OSIPPで開講されている経済系の授業や経済学研究科の授業を取って、経済学博士課程に向けた準備をしていました。OSIPPの授業は基本的に応用寄りでデータに触れる機会も多かったので、実証研究に関心のある私としては興味深かったです。また、水曜日のお昼は、OSIPP Lunchtime Seminar(OLS)に定期的に参加していました。このセミナーでは発表者と教員の方々の意見交換を通じて、質問・プレゼンの仕方について多くの学びを得ました。私にとってOLSは初めて研究室外で発表したセミナーでもあり、発表が終わった後も議論に付き合ってくださる先生もいて、有益なフィードバックを得ることができました。

OSIPPでじっくり修士論文を書き上げた経験は、非常に良い博士課程への準備になりました。学生数の多いLSEの修士課程では、修論指導を受けることが難しく、試験直後の数ヶ月間でほぼ生煮えのエッセイを提出することになりました。一方OSIPPでは、指導教員とのミーティングや、セミナーでの同期の進捗報告を参考にしながら、より現実的なスケジュールで研究を完成させることができました。あえて自分の関心を優先し、データの制約の多いプロジェクトに挑み、分析結果の解釈が一筋縄ではいかないなどの苦労もありましたが、当時の指導教員だった小原美紀教授が「その苦労こそ研究の面白さだよね」と言ってくださり、先生の力を存分に借りながら実践的な知識を蓄えることができました。加えて、自分の研究をとりあえず形にした経験が一つあることで、完璧主義になるあまり研究を滞らせてしまうこともなく、研究を着実に進めていく姿勢が身についたのも大きな収穫でした。

 

海外大学への進学を希望する場合は、学生時代にどんな準備をしておいたらよいか教えてください。

一般的な欧米の大学の経済学修士・博士課程に出願するときは、経済学科目 の成績、英語の能力、奨学金が欠かせません。これらは即座に準備できるものでもないので、常に気にしておく必要があると思います。その他、CV(履歴書)、SoP(志望理由書)、推薦状などの提出書類もありますが、経済学修士・博士課程への留学のノウハウは、インターネットで調べれば  かなりの情報が得られます。11〜1月頃の出願期の1年前から情報収集を始め、先生方と相談を重ね、戦略を立てていけば余裕をもって受験に臨めると思います。ただ、イギリスの場合は早い者順に出願書類を見る傾向があるので注意してください。

加えて、私はあまり時間をとれませんでしたが、関連分野まで視野を広げて多くの論文を読むことで、自分の研究関心がよりはっきりしてくると思います。理想を言えば、この研究者の着眼点や書き味は妙に参考になるな、みたいなイチ推し的存在が見つかると、志望先の大学も自然に絞れてくるのではないでしょうか。当時、私の熱量はそのレベルには至りませんでしたが、IDEASの分野別の大学ランキングと大学の公式ページを駆使して、各大学とのマッチ度を予想しました。それと同時に、5〜6年の海外生活になるので、気候や食文化などの観点から、どの国に住みたいかについて想像を膨らませるのも大事だと思います。

(OSIPP博士前期課程 藤原慶斗)