2024.11.29
シンポジウム
2024年11月1日、大阪大学中之島センター佐治敬三ホールにおいて、大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)創立30周年記念大会の一環としてシンポジウムが開催された。
(写真:シンポジウムの様子)
シンポジウム 「ポスト・コロナ時代の国際開発関係大学院のミッション」
「ポスト・コロナ時代の国際開発関係大学院のミッション」と題するシンポジウムでは、OSIPP研究科長の中嶋啓雄教授に加え、名古屋大学の岡田亜弥教授と神戸大学の木村幹教授も登壇して「地方国立大学」「研究大学」「開発・政策系学際研究科」という三つの要素が交差する地点に立つ研究科の可能性と課題について問題提起がなされた。特に、研究面における異分野間の協働、多様な背景を持つ学生への教育アプローチ、そして地方国立大学としての独自性という三つの観点から、司会であるOSIPP副研究科長の小原美紀教授が加わり、議論を開始した。
最初に、名古屋大学大学院国際開発研究科に関しては、国際性と学際性を有した研究科であり、SDGsの視点を取り入れたカリキュラム編成を行っており、特に、日本人学生への海外研修や留学生への国内研修など実践的な教育研究活動に力を入れていると、岡田先生から説明があった。具体的な取り組みとして、社会人向けの博士課程の設置や、将来的に国際機関での活躍を目指す学生の育成プログラムを構築したことも報告された。また、修了生のネットワークの強さについても述べた。多くの修了生が母国で中枢的な役割を担い、研究機関や大学で活躍していることは、同研究科の教育の成果を示すものとして評価できるという。最後に、OSIPPとGSIDには多くの共通点があることを指摘し、今後の協力関係の深化に期待を示した。
次に、木村先生から、神戸大学大学院国際協力研究科に関しては、複数の専攻とコースを設置する比較的規模の大きい研究科であり、経済学、政治学、医学など幅広い分野をカバーし、特に、4つの学位を授与できる体制を整えている点が同研究科の強みであると述べた。また、「国際協力学」の概念は定義が曖昧で、海外でも通用しにくい概念であるため、むしろ学生の求める具体的な学位に焦点を当て、複数の学位プログラムを用意することで多様なニーズに応える方針を採用しているという興味深い言及があった。学際的な研究教育については、教員を無理に組み合わせるのではなく、学生の興味や必要性に応じて教員をオーダーメイドで組み合わせる方式を採用している点が強調された。
OSIPPに関しては、研究科の特徴として、若手教員が多いこと、留学生が半数以上を占めていること、講義の半数を英語で実施している点など、中嶋先生から説明があった。
続いて、コメンテーターとして登壇したOSIPP准教授の髙田陽奈子先生は、OSIPPにおける学際性として、多様なテーマと研究手法を用いる教員が在籍し、互いの研究をリスペクトする文化が根付いていることを強調した。教育面での課題として、学際的な研究を教育に効果的に活かすこと、特に、研究を始めたばかりの学生に対する学際的な研究指導の困難さについて言及した。この課題への対応として、入学時からの複数指導教員制度や、専門の異なる教員による共同講義の実施などが提案された。
さらに、コメンテーターであるOSIPP准教授である石瀬寛和先生からは、異分野間交流の具体的な取り組みとして、昼食時を活用した研究報告会の実施やそのオンライン化によって、修了生や他大学教員との交流が活性化している点を紹介した。また、学部1年生向けのオムニバス講義では、同一テーマについて異なる専門分野の教員が講義を行うことで、学問的視点の多様性を学ぶ機会の重要性を示唆した。続いて行われた討論では、まずOSIPP副研究科長である大槻恒裕教授から各研究科の戦略についての質問が投げかけられた。特に、主に海外の問題を扱う名古屋大学・神戸大学と、国内外の問題を扱うOSIPPとの違いを踏まえた上で、それぞれの特色の出し方や、後期課程の学生確保という課題に対する各研究科の取り組みについて意見が交わされた。
木村先生は、OSIPPの創立30年という歴史はまだ浅く、今後の発展可能性を秘めているという見方を示し、学生間の交流を含めた伝統や環境作りが不足している可能性を指摘した。岡田先生からは、現代の学術界における学際的な境界が曖昧になっている世界的潮流については、専門性の明確化が重要であるという指摘があった。具体的には修了証書での専攻明記など、学生の専門性を対外的にアピールする工夫が紹介された。シンポジウムを締めくくる前に、参加者に配られていたアンケート調査の結果について、小原先生から報告がなされた。アンケートを通じて、多くの教員が研究時間の不足を感じており、収入と研究時間のトレードオフという課題が浮き彫りとなったこと、また施設面では、老朽化への対応と交流スペースの整備が求められているという結果が示された。
最後に、各登壇者から今後の展望に関する発言があった。OSIPPの髙田先生は教員の多様性と学際性に関する新たな視座を得られたこと、石瀬先生は学生の自由な選択の重要性を再認識できたと述べた。大槻先生は、まず確実な専門性を確立し、そこから範囲を広げていく段階的なアプローチの重要性を指摘した。中嶋先生は教員間のコミュニケーション促進の必要性を強調し、30年という歴史を踏まえた今後の発展可能性について言及した。神戸大学の木村先生からは、国立大学全体が直面している困難な状況を変革していく重要性と、学生、教職員が満足を感じられる環境づくりの必要性が指摘された。最後に、名古屋大学の岡田先生は、3大学間の協力関係の発展の重要性を強調した。
本シンポジウムを通じて、学際的研究科の可能性と課題、そして今後の展望について、具体的かつ建設的な議論が展開された。各研究科の特徴や取り組みが共有されるとともに、今後の協力関係の深化に向けた基盤が形成された意義深い機会となった。