教員

教員紹介:川窪悦章 講師

教員紹介:川窪悦章 講師


2024年8月1日付で講師として着任した川窪悦章先生にインタビューを行いました。川窪先生は国際経済学、環境経済学、公共経済学、開発経済学を専門としています。東京大学で経済学の修士号を取得したのち、イギリスのLondon School of Economicsで経済学の博士号を取得しました。(写真左:筆者・右:川窪先生)

 

川窪先生が研究者を目指したきっかけを教えてください。

学部3年次から開発経済学とゲーム理論のゼミに所属しました。開発経済学のゼミでは、フィリピンやタイへフィールドワークに行き、教科書的な理解にとどまらず、経済学を現地の経済活動に当てはめて考えることを学びました。

先輩や同期を含めて、学部生の頃から大学院のコアコースと呼ばれる科目の講義を受講する学生が周りにいたこともあり、大学院に進学してもう少し専門的に経済学を学びたいと考えるようになりました。また、修士課程まで国内で過ごして、博士課程からは欧米に留学する先輩が多かったことに感化され、修士2年次に海外のPh.D.プログラムに出願して、博士1年次の夏からイギリスに留学しました。

 

これまでに研究されてきた内容を教えてください。

サプライチェーンに関する研究で、2011年の東日本大震災に注目して、被災地に取引先がいた企業とそうでない企業を比較して、企業がどのようにサプライチェーンを再構築したのか、またそれにより負の影響をどこまで免れることができたのかを分析しました。その結果、特殊な部品の仕入れなどを被災地の取引先に頼っており、被災地に結びつきの強いサプライヤーを有していたような企業は、ほかの企業からの仕入れに移行することが難しく、生産活動が阻害されてしまったということがわかりました。この分析結果からは、サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)には、状況に応じた迅速な取引ネットワークの組み替えが肝要であることが示唆されています。

 

その研究の魅力を教えてください。

1990年代以降、日本企業は生産拠点をコストの低い地域に配置し、部品や原材料の安価な調達による生産性向上に努めてきましたが、2020年ごろからは気候変動や地政学的な理由によるサプライチェーンのリスクと不確実性が顕在化しています。このリスクは今後一層高まることが予想されており、いざという時に取るべき対策や政策を検討するには各種のデータの詳細な分析が急務です。そのために、私の研究のようなサプライチェーンのレジリエンス(強靭性)に関するエビデンスの提供が重要であり、魅力を持っていると考えています。

 

どういう経緯でこの研究分野を選ばれたのでしょうか。

元々は開発経済学に興味があり、Ph.D.留学時にもそのテーマで研究をしようとしていました。色々な研究テーマを考える中で、特に発展途上国の税務データを利用して研究を行いたいと考えて対象国の政府高官と交渉を行い、2020年1月からプロジェクトを始める予定でした。

しかし、その頃全世界的にコロナのパンデミックとなり、人の移動も停滞して、当初のプランは立ち行かなくなりました。そこで大きくテーマを変える必要が生じ、運良くアクセスできた日本のデータを用いて研究を行うことにしました。当然、予定していた研究環境のセッティングや使用するデータは大きく異なりましたが、そもそもサプライチェーンにも興味があったので、この研究を進めることにしました。

その後、奇しくもパンデミックやその後の世界情勢により、サプライチェーンへの関心が高まってきたので、この研究テーマを選んだことは間違っていなかったと思っています。

 

研究テーマを変えるという非常に困難なPh.D.留学生活だったと思うのですが、他に思い出はありますか。

 2016年からイギリスに留学したのですが、その年にはイギリスのEU離脱が国民投票で可決され、またアメリカではトランプ大統領が誕生しました。今から考えると、社会的に不安定な要素が多い時期だったと思います。さらに、2020年にコロナのパンデミックがあり、規制が厳しかったイギリスでは家の中ばかりで過ごしていた時期もありました。パンデミックが落ち着くと、次はロシアとウクライナの間での戦争が起こり、ヨーロッパでは政情不安に陥りました。こうした激動の時代を過ごした点で、なかなか珍しい経験をした留学生活だったと思います。

オンラインでのインタビューの様子

学生へのメッセージをお願いします!

特に最近は、研究職だけでなく、社会的にも大学院を修了した人材が求められていると思います。学問の世界に進むとしても政府・民間企業に就職するとしても、様々な機会が広がっているので、限界を決めずに色々なことに挑戦しながら、充実した大学院生活を送ってもらいたいと思います。
勉強や修士論文の執筆など、大変なこともあると思うのですが、同期の学生らと協力し切磋琢磨しながら、楽しく過ごせるといいと思います。研究について悩んだときは、アドバイザーの先生に相談することで突破口を開けることもあります。
研究分野の選択で説明したように、完全に自分ではコントロールできない要因で計画の変更を求められることもありますが、そういった時にもくじけずに、代替案を考えて、トライを続けていってもらえればと思います。挑戦を続けていると、意外なところで上手くいくこともあります。

 

先生のお話を聞いて 

川窪先生へのインタビューを通じて、壁にぶつかっても諦めずに挑戦し続けることや、失敗を補うための第二の選択肢を事前に用意しておくことの重要性を学びました。また、筆者は先生に対して常に落ち着いた印象を持っていますが、それは激動の博士課程生活を経験されたからこそ培われたものなのかもしれないと感じました。不測の事態が起こり得る現代において、冷静さを保ちながら自分のやりたいことを見据えて生きることの大切さを改めて実感しました。

(OSIPP博士前期課程 奥野愛理)

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講師 川窪 悦章

研究テーマ:サプライチェーンの脆弱性とレジリエンス・企業の生産性

専門分野:国際経済学・組織の経済学・公共経済学

学位:博士(経済学)(LSE, UK)

 

<代表的な業績>
1. “Do Supply Chain Disruptions Harm Firm Performance? Evidence from Japan,” with Takafumi Suzuki, 2024 working paper.
2. “Do Well Managed Firms Make Better Forecasts?” with Nick Bloom, Charlotte Meng, Paul Mizen, Rebecca Riley, Tatsuro Senga, and John Van Reenen, 2021 NBER working paper.

<研究内容に関する記事:東洋経済オンライン>
「海外事例にみる消費税、租税回避行動を抑制か 政策立案にデータ分析の活用を」(2019/9/6配信)

「データから見る、サプライチェーンの「強靭化」 震災後の「取引ネットワーク組み替え」を分析」(2024/5/29配信)

(写真左:筆者・右:川窪先生)