教員

教員紹介:宮野紗由美 准教授

教員紹介:宮野紗由美 准教授


2024年9月に准教授として着任した宮野紗由美先生にインタビューを行いました。宮野先生は、東京大学法学政治学研究科修士課程を卒業後、アメリカのプリンストン大学で博士号を取得しました。国際政治経済学を専門としています。
(写真:研究室にて)

 

国際政治経済学とはどんな出会いだったのでしょうか?

学部時代に、授業やトロント大学への交換留学を通して「政治と経済が交錯する」領域に強い関心を持ったことが、私が専門としている国際政治経済学との出会いです。国際政治経済学とは、政治と経済の相互作用を意識しながら、国際関係の事象を分析する政治学分野の学問です。扱う対象は貿易や投資から開発援助、移民、環境問題など多岐にわたります。

 

オンラインインタビューの様子
(上:宮野先生・下:筆者)

研究者を目指したきっかけのようなものはありますか?

もともと政治学と国際関係論に興味があったことと、それに加えて学部時代のゼミで経験した、自分で問いを立て、仮説を導き、それを検証するにふさわしいデータを探して分析することで、この世の誰も知らなかったことを明らかにする、というプロセスが大変面白く、もっと続けたいと思うようになりました。

周りには優秀な人が多かったので「こんな自分が研究の道を志していいのか」と大学院への進学はとても迷いましたが「研究したいことがあるのならば(大学院に)来ればいい」と言ってくださった教員の言葉に感化され、あれこれと思い悩まずに先のことは後から考えればいいや、との思いで進みました。

 

これまでの研究について教えてください。

私の研究テーマは国際政治経済学で、大きく二つの柱に分かれます。

第一のテーマは、国際機関がどのように情報や基準、政策提言を公表しているのか、そしてその過程に対して各アクターがどのように政治的影響を与えているのか、という点です。例えば、エネルギー政策分野においては、将来のエネルギー予測や政策提言などが国際エネルギー機関(IEA)をはじめとして様々な機関から発行されています。このような場合に国際機関の間でどのような相互作用があるのか、その結果これらの機関が提供した情報は各国でどのように政治的に利用されているのか、という分析をしています。また、ISO(国際標準化機構)の標準策定における多国籍企業の影響についても研究しています。例えば、多国籍企業が国をまたぐ子会社ネットワークを通じてどのように標準化過程への影響力を行使しているのかを明らかにすることで、標準化の政治的側面に迫っています。

大学院で研究に使っていた本(図書館にて)

第二のテーマは、多国籍企業と国家の関係についてです。具体的には、広範なグローバル・バリュー・チェーン(GVC: 製品やサービスが複数の国にまたがって生産される過程で生まれる、国境を越えた付加価値の連鎖のこと)の下で企業がどのように政治的影響力を行使して国家や国際政治・経済活動に影響を与えているのかについて考察しています。特に、貿易協定への関与や地政学的リスクに対する企業の行動、さらには新興国の政策形成における企業の役割に注目しています。例えば、最近出版した論文では、ウクライナ危機が発生した際に、日本企業が企業としてとるべき行動(ロシアから撤退するか否か等)についてどう考えていたのか、またその過程で他国企業の行動はどう影響するのか、オンラインサーベイ実験を用いて明らかにしました。

 

研究の魅力や面白いところは何ですか?

国際政治経済学の魅力は、政治学的な視点から、国際協力・グローバル経済活動の裏にある政治構造や力学を解き明かそうとする点です。例えば、一見技術的に見える国際標準化が、実は非常に政治的なプロセスであることがあります。どの国やどの企業が影響力を持っていて、誰が利益を得ているのか。その背後にある構造や力学を解明することで、現代の国際社会における「政治と経済の交錯」を浮かび上がらせることができます。

また、この学問の面白さは、扱うテーマの幅広さにもあります。国際貿易、エネルギー政策、グローバル企業など、現代社会の様々な側面に関連しており、日々変化する国際情勢と密接に関わっています。そのため、新しい問題について考え続けられるところも大きな魅力です。

 

これから学びを始める皆さんへオススメの入門書はありますか?

国際政治経済学に興味を持った方に、まずは以下の書籍をおすすめします。

“International Political Economy”  by Thomas Oatley

国際政治経済学の基礎が分かりやすく解説された標準書です。初心者でも読みやすく、専門的な理解への第一歩となる内容が詰まっています。

 

 

『国際政治経済』 飯田敬輔 著

日本語で読める入門書として最適です。国際政治経済学の基本的な概念や歴史、現代の課題について学ぶことができます。

 

これらの教科書を手に取り、関心のあるトピックがあったら引用されている論文を手始めに、少しずつ専門的な論文に触れてみてください。先ほどお話ししたとおり、扱う事象が多岐にわたるので、きっと関心のあるテーマが見つかると思います。

 

研究者を目指す方へメッセージをお願いします

特に研究者を目指す女性へのメッセージになりますが、たとえ周りの人に反対されようとも、最初はあまり身構えずに研究活動や研究者のコミュニティを覗いてみてほしいと思います。文系の研究というと孤独なイメージがあるかもしれませんが、共同研究をしたり、執筆した論文を交換して議論したりするのが醍醐味でもあります。とはいえ日本の研究者の世界はまだまだ男性の方が多く、私自身、時には疎外感を感じることもありました。しかし、信頼できるメンターからのサポートを得たり、同僚とのコミュニティができたりすると、研究活動も楽しくなると思います。私自身はこの点で運が良かったです。OSIPPは日本の研究科にしては女性研究者が多く在籍しているので、学生さんも研究者を目指しやすい環境かと思います。「自分に研究ができるだろうか」と迷うことがあっても、興味や情熱があれば、ぜひ飛び込んでみてほしいです。

(OSIPP博士前期課程 金アンジェラ)

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准教授 宮野 紗由美

研究テーマ:国際機構、貿易と海外直接投資の政治学

専門分野:国際関係論(国際政治経済論)

学位:Ph.D. in Politics(プリンストン大学)

<代表的な業績>
Davis, Christina L., Jialu Li, and Sayumi Miyano. 2024. “Peer Conformity and Competition Shape How Business Managers Evaluate Withdrawals from Russia amid the Ukraine War.” Proceedings of the National Academy of Sciences 121(37): e2406471121. doi:10.1073/pnas.2406471121.

<個人サイト> 
https://smiyano.com/