【同窓会主催】修了生インタビュー(末村祐子さん)
2026.1.14

2008年にOSIPP博士後期課程を修了された末村祐子(すえむらゆうこ)さんにインタビューを行いました。末村さんは現在、大阪市天王寺区長を務められ、24区の区長会議会長としても大阪・関西万博やSDGsほか政策実現に向けた企画立案や調整業務に取り組まれています。インタビューには赤井伸郎先生も同席しました。(写真:インタビューの様子。右上が末村さん。)
これまでの経歴、現在の分野や職種に就職しようと思った理由を教えてください。
振り返ってみると、だいたい10年から12年ごとに三つのステージがありました。最初の12年間は、企業・海外・NGO・国連会議フォーラム事務局での経験です。最初の就職先は旭化成でした。男女雇用機会均等法が施行されて間もない頃のことです。人材育成に力を入れてくださる会社で、組織とプロジェクトマネジメントの基礎を学ぶことができました。その後、海外でNGOの経験を積み、最後に携わったのが阪神淡路大震災の復興事業でした。2番目の12年間は、OSIPPでの研究と複数自治体への有識者的参画を並行した時期です。OSIPPでは行政経営・行政改革・防災・NGOといった領域を中心に研究を深めながら、実務にも関わってきました。3番目の約10年間は、政策に係る知識・情報を活用した実社会での取り組みです。東日本大震災の被災自治体の復興支援から始まり、復興庁、岩手県岩泉町での副町長を経て、現在は大阪市の区長を務めています。
これら職種を選んできた理由としては、社会の成熟や全体への関心、進化することや公正であること、そのバランスなど、望ましい解への関心が強かったからだと思います。知識と経験の双方を持つ専門人材になることを個人の目標としてきました。
どうしてOSIPPへ入学することを決断したのか、詳しくお聞かせください。
阪神淡路大震災の復興事業にNGO職員として携わった後、国連会議に出席する機会がありました。当時、日本の国連会議への出席は、霞が関の職員と政治家によるチームで編成されていました。しかし阪神淡路で活動した民間企業やNGOも一緒にチームを組んで出席する体制にすべきだと、当時所属していたNGO側からアプローチしたんです。 その結果、私はNGOから国連会議の事務局に出向し、事務局次長を務めることになりました。ところが、実際に国連会議に出席してみると、海外の方々の活躍のレベルが高く、自分の知識・経験の不足を感じました。海外では、政府・企業・NGOが日頃は利害が異なっていても、国のチームとして一つになったときには協力してアジェンダを獲得していく。そういうアプローチをしっかりされていたんですね。この経験が大きな転機となり、公共政策の領域で活躍するには学際的な理論を理解する必要があると感じ、社会人にも門戸を開いていたOSIPPに入学することを決めました。
現在の天王寺区長としてのお仕事について教えてください。

天王寺区二十歳のつどいでの祝辞の様子
現在の天王寺区区長職では、区役所業務の管理、組織管理、危機対応等の統括業務を所掌しています。大阪市は「ニアイズベター」という理念を重視しており、住民に最も近い区でさまざまな調整を行うことから、区長はそのマネジメントの統括役を務めます。また、区長は区の教育委員会事務局次長も兼任しており、この点は他都市にはない特徴です。さらに、市の各局や24区間、官民の連携を担保するために「区長会議」という仕組みがあり、昨年度からその会長職を務めています。24区で連携しながら大阪・関西万博の機運醸成やSDGsの推進などにも取り組んでいます。
大阪市の特徴として、平成24年6月施行の要綱に基づき、区長の民間からの公募制が十数年続いています。日本の公務員の世界では珍しく、こうした仕組みを継続している自治体は今のところ大阪市だけかと思います。銀行や鉄道、教育ほか多様なバックグラウンドを持つ民間出身者と、市の職員出身の方が一緒に24区の業務に取り組んでいます。
これまでのお仕事の魅力と大変なところを教えてください。
どんな仕事でも、企業でも非営利でも、人も物も資金も、これらが投じられた先では、やはり社会全体が良くなっている、安定もし、進化もしているというところにつながってほしいと考えています。その点、税を財源に、直接貢献できる、そこが地方行政の仕事の一番の魅力だと思います。
大阪市のような政令市が都市計画や環境保全などより広域的な行政を担うのに対し、基礎的自治体の場合は、福祉や教育、保健衛生などを中心に、人が健やかに生きていくということに直結する仕事ができます。行政を通じた資金やサービス、社会ニーズへの取り組みの多くが、他者や社会への貢献に直結している。これは業務上の大きな魅力です。同時に、無尽蔵かつ変化もある多様なニーズに対して、資金も職員も資源は有限です。これらを複合的に網羅し、現実の社会における最適解を見出すには、理論・知識・情報・経験による総合知という縦割りではない専門性が必要です。これまで様々な行政機関で経験を積んできましたが、それでもまだまだ自分の成長の余白がある。そこも仕事における魅力の一つです。
一方で、OSIPPで勉強すると、税をいかに正しく使うかということがとても気になるようになります。「正しい使い方」とは何か、人によって違う。そこに正面から向き合うことになります。2040年を境に人口が本当に縮小していく中で、投じたものがただ右から左に流れるだけでなく、日本社会の成長や持続可能性につながる使い方になっているかどうか。最適解を見つけることは大変ですが、そこは常に考え続けています。
最後に、現在のOSIPP生にメッセージをお願いします。
学部を卒業してすぐにOSIPPに入学する方が多いことを前提にお話しすると、国際的、そして学際的な学問の場であるOSIPPを若いうちに経験できることは、変化の時代にはことさら幸運だと思います。阪神淡路大震災の時でさえ、「これから大きく変化しなきゃ」と社会では言われていました。その後、失われた30年と呼ばれる時期を経て、今また日本は大きな変化の局面にあります。人口の2040年問題を筆頭に、高齢化が進展し、これらを背景に今まで以上に社会課題も広範かつ深刻化が増すことを考えると、限りある資源が投じられた後、ただ右から左に流れるだけでなく、全く違ったステージに突入します。地球全体でも、国際関係の変化やテクノロジーの進化など、本当に変化の時代です。そのことに正面から向き合いながら、小さくまとまらず、おおらかに、多様に経験を積んでください。
私自身も卒業した後、これまでの公共や非営利とは真逆のメカニズムを持つ市場や企業、営利の経済活動を網羅的に理解し直したく、MBAを取得しました。そこでも学問も大変進化していると気づかされましたし、出会った人たちの考えにも刺激を受けました。皆さんが生涯ずっと何かしらの形で社会に貢献できるように、いいチャレンジをともにできたらと思います。
大きく変化する時代を、OSIPPでの経験を胆力に、自己実現と利他の両方で社会に貢献されることを願っています。
(OSIPP博士前期課程 原田嵩弘)
