【同窓会主催】修了生インタビュー(工藤正樹さん)
2025.12.24

OSIPPの卒業生の工藤正樹さんにインタビューを行いました。工藤さんは2004年にOSIPPの博士前期課程を修了、2008年に博士後期課程を修了し、現在はJICAで勤務されています。(写真:現地職員との1on1面談の様子。左が工藤さん。)
これまでのご経歴、現在の職種に就職しようと思った理由を教えてください。
経歴:
博士後期課程の間に1年間休学し、在アフガニスタン日本大使館にて働いたのち、国際協力銀行(JBIC)に専門調査員として就職しました。中途採用を経て、その後、JBICが国際協力機構(JICA)と統合しました。JICAでは、東・中央アジア部→エジプト事務所→アフガン事務所→安全管理部→防衛省(出向)を経て、現在はパレスチナ事務所で勤務しています。
現在の職種に就職しようと思った理由:
私は、学部の卒論から「小型武器」の軍縮不拡散に関する研究をしてきました。そのトピックの関連で、博士後期課程の1年目にアフガニスタンで働く機会を得ました。その際、政府開発援助(ODA)の世界に触れて関心を持つようになり、ポストコンフリクト(紛争が発生した後の社会)の研究をするために当初は研究職としてJBICに就職しました。平和構築・SSR(治安部門改革)の研究をしたのち、JBICとJICAが合併してJICAで紛争影響国支援を行うようになり、現在に至ります。

© Palestinian News Network (PNN)
パレスチナの難民キャンプの様子。紛争の影響もあり、ヨルダン川西岸地区でも日々、生活が苦しくなってきている。視察時に現地TV局の取材を受けているところ。(右から2番目が工藤さん)
現在の仕事内容とその魅力や面白いところ、大変なところを教えてください。
現在の仕事はマネジメントですが、事業管理と(事務所内の)労務管理の割合は、およそ3:7位でしょうか。
事業(開発援助)の魅力は「世界の一角を良くする」ことができたなと思える瞬間に出会えることです。支援で実際に、相手国の抱える問題を解決したり、日本の技術が他国で生かされて、発展につながる瞬間に出会えるのは、開発援助ワーカーとして、やりがいを感じます。

難民キャンプ改善プロジェクトの様子。難民キャンプの改善事項や予算の使い方を、社会的弱者も含めた「インクルーシブな住民参加型」の協議体で話し合って決めるやり方を技術指導。より住民のニーズに寄り添う形で計画策定がなされるようになり、それにより、他ドナーや他国の自治体からもファンドをもらえるようになった。(工藤さんはテーブル席の左から3人目)
一方で、大変なところは途上国の「YES」はYESではないことが多いことですね。日本と「常識」が異なることです。
マネジメントでは、職場の環境や仕組みづくり、人のマネジメント・育成を行っています。
その魅力は同僚のポテンシャルを発掘して成果につながったり、コーチングで成長したりする瞬間に出会えることです。大変なことは人のマネジメントや仕組みづくりは「成果」がでるのに少し時間がかかる点でしょうか。
これまでの経歴の仕事や、現在の職種を希望する場合は、学生時代にどんな準備をしておくべきでしょうか。
認知能力と非認知能力の両方をのばす経験をしてもらうことが大事だと思います。
認知能力:
OSIPPで政治、法、経済の学問に触れることで、「考え方の基礎」と「思考の枠組み」を養えたと思います。いろいろな概念に触れられることができ、文章力と「言語化」のトレーニング(=仕事でも重要)ができました。また、「小型武器の軍縮不拡散」というテーマを軸に、修士時代に、国際法→経済学→政治学と3つのアプローチを模索してみました(最終的に博論は政治学で執筆)。この「寄り道」は、振り返るととても有益でした。というのも、政治・経済・法律の基礎概念があると、どのようなトピックが来ても、大枠のところで対応・理解できるようになり、実務では非常に便利だからです。国際会議に出席すると感じるのですが、背景知識がある会議とそうでない会議では、内容の理解・吸収度が全く異なります。自分の専門外の領域であっても、学ぼうと思えば、政治・経済・法律についての知識を得ることができるのはOSIPPのメリットだと思います。
非認知能力:
とっつきにくい用語かもしれませんが、要するに「ただ勉強ができるだけの人」にならないよう人間力も鍛えよう、ということかもしれません。非認知能力については、振り返ってみれば、学業以外で行ったいろいろな活動や経験が、のちのち仕事でも生きているように思います。例えば、院生会で幹部をしていた時に他の学生間で起こったトラブルを仲介する場面がありました。当該の学生2人だけで話してもらうのではなく、自分自身が間に入って2人が話すのを見ているだけでも話がうまく進むことを知りました。この経験は今のマネジメント業務でも多方面で生かせています。
現在の職種を希望する場合には、採用面接では以下の観点で話を伺っています。これらについて考えながら志望されると良いのではないでしょうか。
①志望動機(志と熱意)、②資質(能力と伸びしろ)、③職場にフィットするか(相性)
OSIPPでの学生生活、思い出、学んだことで役立っていることがあれば教えてください。

OSIPP時代の写真(黒澤先生と黒澤ゼミ@軍縮会議)
OSIPPでの学生生活は「勉強しながら遊んで、遊びながら勉強した」という感じだったと思います。OSIPPでの思い出は色々ありますが、あえて絞ると次の3つになります。
①黒澤ゼミ:黒澤先生の「しかけ・仕組み」作り。例)定期研究会(他ゼミ生も参加)
学生の資料提出期限の設定の仕方や発表機会の設け方など、勉強を続けるための環境が整えられていたと思います。
②学友:頻繁に先輩と後輩との飲み会があり、勉強の気晴らしになっていました。
③院生会:振り返ると、利害の対立と調整を経験する貴重な機会でした。院生会で幹部をしていた際、留学生同士のもめごとの仲介をする機会がありました。院生会で課題として取り上げて介入しつつ、基本的には、私は間にいて話を聞いているだけだったのですが、双方の主張を、できるだけ公平な立場でひたすら傾聴するだけでも、双方の話がうまく妥協していく方向に進んでいくように感じました。この感覚は今現在のマネジメント業務で同僚や部下の話を聞くことが多い状況でも生かされています。
現在のOSIPPの学生にメッセージをお願いします!

インタビューの様子。窓の外の風景(右側)は、パレスチナの中心都市ラマッラの街並み。
社会人になると「学生の時のような知人・友人」関係ができる機会はほぼ皆無になるので、学友関係の貴重さを改めて感じています。
また、特に博士後期課程では一人で勉強する作業が多くなり、モチベーションの維持が重要になります。私自身がOSIPP生時代に、指導・副指導教官から言われて心に残っている言葉をお伝えしようと思います。
・一つのことを徹底的に突き詰める。時間と締切は厳守(黒澤先生・当時の指導教官)
・目の前のことに一生懸命に取り組む(星野先生・当時の副指導教官)
・やる気のマネジメントと健康の大切さ(栗栖先生・当時の副指導教官)
(OSIPP博士前期課程 奥野愛理)
