修了生

【同窓会主催】修了生インタビュー(芥川晴香さん)

 

2017年にOSIPP博士前期課程を修了された芥川晴香さんにインタビューを行いました。芥川さんは卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)に就職され、7年勤務した後、現在は清水建設に勤務されています。また現在、社会人院生として一橋大学の大学院で経営学を学ばれています。(写真:芥川晴香さん)

 

このような経歴の職種に就職しようと思った理由、現在の職種に就職しようと思った理由を教えてください。

JETROに就職しようと思ったきっかけは、修士1年の夏に参加したインターンシップでの経験でした。JETROのことは、社会科学系の研究機関であるアジア経済研究所としては知っていましたが、アカデミアでも信頼を置かれているJETROがビジネスではどのように貢献しているのかに興味があり、インターンシップに参加しました。もともと、日本の経済やビジネスがどのような構造になっているのか、何が価値の源泉になっているのか、今後日本がどのように成長していくのかに関心があり、また政府機関でルールメイキングに携わるよりもビジネスを間近で経験したいという思いもあったため、JETROを選びました。また、海外に繋がる研究をしていたので、海外で働きたいという気持ちもあり、総合職では必ず海外駐在があるという点も魅力に感じていました。

 

JETROではどのような仕事をされていましたか。

JETROでは、入社後の4年間は東京で日本企業の海外展開支援や海外企業の日本への誘致活動に従事し、その後クアラルンプールと横浜で、日本発スタートアップのグローバル展開支援に携わりました。クアラルンプールに駐在した時期が、東南アジアでもようやく政府レベルで気候変動への対策をしていこうという流れがあったタイミングでした。それに対し、日本政府やジェトロは、「これまで日本が培ってきた省エネ技術をはじめとする環境への取り組みが、東南アジアの課題解決に貢献できるのではないか」という仮説がありました。その仮説のもと、脱炭素に係わるビジネスチャンスについて検討したり、マレーシアの国営企業やスタートアップがどのような課題に取り組んでいるのかを調査し日本の企業に情報提供をしたりしていました。

 

そのような業務から現在の職種へはどのような経緯で転職するに至ったのでしょうか。

駐在中に、日本やマレーシアの起業家と接する機会が多くありました。マレーシアの市場は成長していて、起業家達も、目指す社会や、その社会に対して何をするのかクリアに描けていて、それに向けて前進するのみといった方ばかりでした。その姿にとても魅力を感じていました。JETROや政府機関では、企業が投資する前の下準備をしたり、投資した後に生じた問題を政府同士の交渉で解決したりと、環境整備がメインとなっていましたが、起業家と接しているうちに、自分自身もプレーヤー側に立って実際にビジネスをやってみたいという思いが強くなりました。また、最終的に事業に関する意思決定をするのは事業会社でもあり、自分自身で選び最後までやり切りたいという思いも抱いていたため、事業会社の中でも新規事業や事業開発でポストを探していたところ、清水建設とのご縁をいただきました。

一橋大学にて

清水建設では、全社のイノベーション推進をミッションに、社内新規事業制度の運営と同制度を使ったプロジェクト推進を行っています。特に、資源循環や脱炭素といった地球規模の社会課題をビジネスとして解決することを大きな目標にしています。

また、OSIPPでの実践よりのアカデミアの経験が社会で非常に役に立つということは確信していたので、政府機関から民間企業に移るにあたり学び直そうと一橋大学のMBAに通い始めました。働きながら学ぶということには、今日学んだことを、次の日会社で実践できるという魅力があると感じています。現在は、特に大企業が社会課題をどうやってビジネスという枠組みで解決していくか、というところに関心を持って研究やコースワークに取り組んでいます。

 

 

これまで経験されたような職種を希望する場合は、学生時代にどんな準備をしておいたらよいでしょうか。

JETROのような政府機関でも、清水建設のような事業会社でも、いわゆる「文系修士」が果たせる役割はとても大きいと考えています。近年ではビックデータの重要性が社会的に高まっており、データからどのような傾向があるのか、を簡単に知ることができます。ただ、なぜそれが起こっているのかは、データの分析だけでは難しいことがあります。社会科学を学んでいる学生の多くが、さらにそこからケースを見て、因果関係がどのようになっているかを解き明かすことがセットで重要であることを理解していると思います。社会科学や人類学の、問題が起こっている場所に深く入り込み、インタビューやエスノグラフィを通して、問題の根本を解き明かしていくというアプローチは、社会にとって不可欠だと思います。一方で、インターネットで検索すれば誰でもすぐに情報が手に入れられるため、知識そのものの陳腐化は早くなっているように感じています。そのため、「何を勉強していたか」というより、Howの部分の、どのように適切な問を立てるのか、問に対しどのように解決策を導くのか、といった問題解決のための考え方や思考力の価値が高まっていると実感しています。その力があれば、政府機関でもビジネスの場でもどちらでも社会の役に立てる人材になれるのではないかと思います。

 

OSIPPではどんな学生生活だったか、OSIPPでの思い出、OSIPPで学んだことで役立っていることなどを教えてください。

OSIPPでは、民主化の流れに対して権威主義体制側がどのような反応を取っているのかについて研究していました。2012年に大学に入学した時期が、ちょうどアラブの春と言われる民主化の波が起こっていました。主に過去の出来事から学ぶ政治学で、「今」起こっていることを学ぶチャンスだと思い興味を持ちました。当時、民主化の研究は欧米の研究者が中心で、民主化を後押しする要因についての研究は多いものの、権威主義体制側から見てどのように民主化を防ごうとしているのか、そのために権威主義国家同士がどのように協力しているのかの研究は多くありませんでした。そのため、体制側に着目し、民主化に対してどのような反応をするのか、何が要因で民主化を防げるのかを研究しました。在学中はカタール大学にリサーチアシスタントとして、インターンシップにも参加しました。

OSIPPでの学生生活では、留学生との交流が特に印象に残っています。例えば、私がJETROに魅力を感じたのも、留学生との対話があったからだと感じています。当時、メディアなどでは「日本が発展途上国の成長を助けてあげるべきだ」といった偏った風潮が多くありました。OSIPPには東南アジアからはもちろん、スーダン、パキスタン、シリアからの留学など様々な国出身の同級生がおり、彼らと一対一で話すと、「助ける側と助けられる側」というような関係に違和感を抱くようになりました。JETROは、世界の平和を最も大切にしているものの、日本のための組織で、日本が成長することも同様に重要視しています。OSIPPでの留学生との対話や多角的な視点が、日本の立場で対等に社会に貢献していくというJETROの考えに共感するきっかけとなったと思います。

 

最後に、現在のOSIPP生にメッセージをお願いします。

今、社会課題の解決は、政府や公共部門だけでなく、ビジネスセクターが積極的に関わるべき時代になっています。民間企業が社会課題に取り組むことは、持続的かつインパクトも大きくその結果様々な人を巻込むことができます。OSIPPで「社会を良くしたい」という志を培った皆さんは、公的機関だけでなく、事業会社やスタートアップなど、あらゆる分野で活躍できる大きなチャンスを持っています。OSIPPで培った多角的な視点と、多様な価値観を理解する力を武器に、キャリアの可能性をパブリックセクターや研究者に限定せず、ぜひ広く探索してみてください。皆さんがご自身の信念をもって、社会変革の担い手として活躍されることを心から応援しています!

(OSIPP博士前期課程 山本葉月)