松本充郎先生-追悼集-

松本先生に教えていただいたこと

 

「松本先生に教えていただいたこと」

河尻京子(OSIPP博士後期課程)


 

 

 

大学院で新しい挑戦をし続けてこられたのは、松本先生の暖かいご指導のおかげです。私は、子どもが中学校に入学したと同時に大学院に進学しました。子育ての中で授業や研究の時間を見つけるのに苦労しながらの大学院生生活は、とても新鮮で刺激的なものでした。修士2年になり、松本先生に副指導教官をお願いしました。私が修士論文で扱った研究テーマは、その当時まだ新しい分野であったため、先行研究を集めるのに苦労し、論文が書き上げられるか途中までとても不安でした。そんな時、「河尻さんの研究テーマはまだ新しい分野だから論文として書くのは少し難しいけれど、やりたいことをやるのがやっぱり一番だと思いますよ。」と、修士論文が行き詰まって研究テーマを変えようか悩んでいた私の背中を押してくださった松本先生の言葉が今も励みになっています。

教材の入ったエコバッグ、マイカップ、そして、小さなデジタル置き時計の3点セットを必ず持って、松本先生は授業に来られました。大学院の環境法と国際環境法の授業は、履修している生徒は多くありませんでしたが、年齢も国籍も専門も多様で、私もとても居心地が良かったクラスの一つでした。松本先生は英語がとても堪能だったこともあり、授業では日本語と英語が行き交い、先生からだけではなく多様なバックグラウンドを持つ他の学生の皆さんからも、多くを学ぶことができました。

博士後期課程に進学してからは、TAとしても松本先生のお世話になり、先生の学部や大学院の授業を受けさせていただきました。そこで新しいことをさらに学ぶことができただけではなく、先生の研究室に授業の資料を持っていった際には、私の研究の方向性や、初めての論文投稿、学会での初めての論文発表に対するアドバイスをいただくことができました。先生の授業のTAをいくつも担当するのは少し大変でしたが、その機会がなければ、論文投稿や学会発表もできていなかったのではないかと思います。

ある時、TAの仕事が終わり授業の資料を持って松本先生の研究室に行くと、法学部の入試パンフレットに掲載予定の、先生の写真と紹介文を見せてくださいました。指導する意欲に満ちた先生の写真に添えられた紹介文は、地球環境問題をなんとかしたいという先生の強い思いが伝わってくるものでした。「河尻さん、紹介文こんな風に書いてみたんですよ。これを読んで関心を持ってくれた学生がうちのゼミに来てくれないかなぁ。来てくれたら嬉しいんですけどね。」と少し照れながらも嬉しそうに話されていたのが、ほんのつい最近ことのように思い出されます。

COVID19で海外から帰国の目処がたたない中、私は先生の訃報を聞きました。昨年秋に一時帰国した時、病院に一度お見舞いに行かせていただきました。だいぶお痩せになっておられたものの、いつものように修論に取り組んでいるゼミの学生さんのことを気にかけ、ご自分の研究のことを熱く語り、論文執筆に邁進される先生の姿に少し安堵したのを覚えています。未だに信じられません。帰国して大学の先生の研究室を訪ねたら、窓際の机に向かって座っている先生が振り返って、「どうぞ。」と迎え入れてくれるのではないかとまだ思っています。

自分の関心のあることを理解し応援してくださる先生に巡り会えて本当に幸せでした。まだまだ先生からたくさん学びたかったです。本当にありがとうございました。心からのご冥福をお祈り申し上げます。

OSIPP NEWSLETTER(2013年夏号)掲載「私の一冊」取材時の写真