松本充郎先生”私の一冊”(OSIPP NEWSLETTER Vol.63 より)
2020.8.28
松本充郎先生の”私の一冊”(OSIPP News Letter 2013年夏号の紙面に掲載)をご紹介します。
著者:Holly Doremus and A. Dan Tarlock
『Water War in the Klamath Basin: Macho Law, Combat Biology, and Dirty Politics』
Island Press, 2008
松本先生の専門は行政法・環境法・水法。日本の河川法は、1896年の旧法・1964年改正では治水や利水のみを対象としていたが、1997年の改正により環境保全を含むものへと変化した。これに対して、水害訴訟や慣行水利権と発電水利権の調査に関する研究は手垢がついていたが、環境問題を踏まえた法学的な研究は皆無であったことが、水法の研究を研究を志した契機だという。
先生は、2004年に高知大へ着任したことがきっかけで、水力発電や灌漑等の人為的活動によるアユの激減への法的対応に関する研究に取り組み始めた。当初は、あまりにも対象を絞りすぎた研究になるのではないかと不安に感じる部分もあった。そんな時にであったのが本書だという。本書は米国西海岸におけるサケの激減に直面し、生態学的知見が不確実であり、漁業権を持つ先住民への偏見がある中でいかなる法的対応をとるべきかを論ずる。本書が読んでいて面白いと感じるものであったからこそ、自分の研究の方向性にも自信を持つことができ、もっと自分の研究の水準を上げることができると確信することができたそうだ。
水環境という、法と自然科学にまたがる分野の研究に携わる中では、他の分野のプロとフィールドを共有することになる。このとき、自分自身がどう思っているいるにしろ、相手は自分を法律の専門家として見ているという事を痛感したという。学際研究に挑むOSIPP生に対して、「他の分野の専門家と問題を共有する際には、専門性が必要とされるので、ぜひきちんとした専門性を身に着けてほしい。各分野の基礎は無味乾燥に感じられることもあるが、勉強していけば面白さを分かるようになるとおもう」とエールを送った。