教員紹介:鎌田拓馬 講師
2020.9.15
OSIPP経済系教員である鎌田拓馬講師にインタビューを行いました。鎌田先生はペンシルバニア州立大学で社会学の博士号を取られ、2020年6月に国際公共政策研究科講師として着任されました。専門は計量社会学で、特に犯罪学、都市社会学、社会的不平等を中心としたテーマで研究されています。
いま取り組んでおられる研究内容についてお聞かせください:
私が現在取り組んでいる研究は、①社会政策や法的取締が犯罪へ与える影響、②犯罪が人種格差や社会的格差へ与える影響です。例えば、私が長く行ってきた研究の一つに、暴力団排除条例が暴力団の組員数や振り込め詐欺に与える効果を検討したものがあるのですが、その条例効果は、地域別の暴力団の競合度合いに依存します。それでは、なぜ地域ごとに暴力団の競合度合いは異なるのでしょうか。その一つの原因として、最近では歴史的経路依存を一つの説明として考えていて、歴史的な産業構造の変化などを検討しています。その他にも、歴史的な薬物汚染などのイベントが、都市の景観や階層人種別の住み分けへ与える長期的効果にも関心を持っています。
この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください:
研究に興味を持ったきっかけとして、「ヤバい経済学」という本を読んだことが非常に大きいです。この本では、「日常生活から裏社会までユニークな分析で通念をひっくり返す。」ということが謳われており、これに惹かれて私の専門分野である犯罪学研究を志すことに繋がりました。あとは、昔から警察24時が好きで、今振り返ればそれが犯罪研究をする土台になっていたのかもしれません。
この研究の魅力や面白いところはどんなところですか:
この分野の面白さの一つとしては、「政策の意図せざる結果」を明らかにできることかと思います。例えば、先に挙げた暴力団排除条例は、暴力団組員数は減少する一方、振り込め詐欺を増加させました。つまり、社会の厚生を改善するために制定された政策が、一部において悪化させてしまうという意図せざる結果を引き起こしてしまいました。この知見は政策的にも重要ですし、このように新たな発見を見出すことができた時に、研究の魅力を感じます。
また、時間が経つと地域構成員が変わるにもかかわらず、歴史的イベントやショックが持続的な効果をもたらすというパズルを発見できるのも研究の魅力だと思っています。
大学院でこの分野を研究していくためには、どういった勉強をしておく必要があると思われますか:
勉強を進めるうえで、自分の専門分野以外の研究にもアンテナを広げていて欲しいと思います。大学院で研究を進めるということは、自分の専門領域を掘り下げていくということなので、学部の間は、幅広くアンテナを張り巡らし、様々な研究があることを認識することが大事かと思います。このようにアイディアのストックをしておくことで、後々自分の専門分野へ応用し、研究の幅を広げることができると思います。
また、私は定量分析を中心に研究を行っていますが、定性分析から得られている知見にも目を向け、両方法論を補完的に捉えられるようにすると、研究に深みが出ると思います。
最後に、自分が研究している社会現象について、データを見るだけでなく、現場を見てみることも有益かと思います。私は、ある海外の学会に参加した際に、開催地域の貧困地帯で宿泊する機会がありました。そこでの経験として、自分の分析で貧困について理解していたと思っていたことと、実際その地域で目の当たりにした貧困にはギャップがあり、データを見ただけでは分からないことを自分の目で見て理解を深めることができました。
最後に、先生の指導スタイルをお聞かせください:
私の指導方針としては、学生に根気強く取り組んでもらえるような環境を作ることだと考えています。研究活動は長いプロセスであり、私と学生がキャッチボールをするように研究の質を高めていくことが不可欠であると信じています。
また、私の専攻は犯罪学ですが(そもそも日本で犯罪研究は非常にマイナーですので・・・)、学生がその分野に関心を持っていてくれることは嬉しく思います。最後に、知的好奇心を持って研究に取り組み、常にどのようにすれば考えている問に答えることができるのか、なぜ観察された現象が起きているのかを考えてみて欲しいと思っています。
(OSIPP博士前期課程 高村武志)
インタビュー時期2020年7月
講師 鎌田拓馬(かまた たくま)
学位:Ph.D. in Sociology(ペンシルバニア州立大学)
研究テーマ:(i)社会政策や法の取締が犯罪に与える影響の検討(ii)犯罪が社会的不平等に与える影響の検討
専門分野:犯罪学、都市社会学、社会的不平等
<代表的な業績>
・”Is Legal Pot Crippling Mexican Drug Trafficking Organizations? The Effect of Medical Marijuana Laws on US Crime” Economic Journal. (joint with Evelina Gavrilova and Floris Zoutman)
・”Third Party Approaches to Organized Crime: an Evaluation of the Yakuza Exclusion Ordinances” Journal of Quantitative Criminology. (joint with Tetsuya Hoshino)
<研究プロジェクト>
・”Enforcement against Organized Crime Fosters Illegal Markets: Evidence from the Yakuza” (joint with Tetsuya Hoshino)
・”The Emergence of the Crack Epidemic and Suburban Residence between and within Ethno-Racial Groups”
・”The Crack Epidemic and the Rise and Persistence of Concentrated Poverty in the Inner-City.”
・”The Long-Term Consequences of the Crack Epidemic on Residential Racial Segregation.”(joint with Corina Graif)
・”Gentrification and Crime” (joint with Evelina Gavrilova and Floris Zoutman)
・”The Effects of Law Enforcement on Community Connection” (joint with Corina Graif)
・”Immigration and Crime: Evidence from Japan” (joint with Toru Terashima, and Kikuko Nagayoshi)
・”Historical Origin of the Yakuza: the Effects of Coal Mining on Contemporary Yakuza Concentration.”