研究紹介教員

【研究紹介:木戸衛一教授】 ドイツ現代政治と平和研究

【研究紹介:木戸衛一教授】 ドイツ現代政治と平和研究


シリーズ「研究紹介」では、OSIPPに在籍する先生方の最新の研究を紹介しています。今回は、ドイツ現代政治と平和研究を専門にされている木戸衛一教授にインタビューを行いました。  

(写真:2018年2月20日ドレスデン聖母教会での公開講演)

 

 

Q:現在研究されているテーマをお聞かせください。

A:ドイツ現代政治と平和研究を専門にしています。ドイツは日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国でありながらも、日本と違ってデモクラシーの優等生とされてきました。ところが、ここ5~6年「極右」の問題が非常に強まっています。特にコロナ禍において、いわば市民の不安を利用し煽るような極右の活動が目立っています。それから平和研究という面では、やはり昨年からのコロナ禍を経て、人類がどういう方向に歩むのかという問題についても取り組みたいと思っています。

 

被爆者証言をドイツ語に翻訳するボーフム大学でのゼミの新聞紹介。              Westdeutsche Allgemeine Zeitung紙(2020/2/1付)に掲載。

Q:この研究に取り組むきっかけは何ですか。

A:ドイツ現代政治を研究し始めたきっかけは、僕が高校三年生(1975年)だった時に遡ります。その年に東京都知事選挙がありました。当時、現職の美濃部亮吉を支持したのは社会党と共産党でしたが、この二つの政党は同じ革新陣営ながらけんかを繰り返し、美濃部さんは一旦「立候補しない。」と言ってしまったんです。そのことを受けて、東京では大騒ぎになりました。対抗馬は、当時からファシストとして有名だった石原慎太郎で、「美濃部さんが知事選に出なかったら東京はどうなる。」と多くの人が心配していました。ちょうどその頃新聞で「この情勢はドイツと似ているのではないか。」という投書か記事を目にしたのです。これは、ワイマール共和国時代のドイツで社会民主党と共産党が仲たがいをして、それをナチスが利用していったことを指摘していたのです。それが僕の心に非常に響きました。ドイツの歴史や政治はいったいどうなっているのだろう、その分野について勉強してみようと決意しました。平和研究ということでは、両親の戦争体験の影響が大きいです。

 

 

Q:先生のご指導のスタイルを教えて下さい。

ドレスデン聖母教会での公開講演(2018/2/20)

A:僕自身の大学院生時代に比べると、最近は学生がすごくおとなしくなったと感じます。大学院生が教員に対して、「いや…それは違うんじゃないんですか。」と議論を挑むようなことが乏しくなり、とにかく教員の話を学生がおとなしく聴いている感じです。そこで、学生との意見交換の場では僕自身が話をし過ぎず、できるだけ学生からの発言に耳を傾け、“学生たちが自由に意見を語る環境”を作ることを心掛けています。もっとも実際には、学生の沈黙に我慢できなくなって、こちらがついつい口を出してしまうのですが…。

 

Q:先生が出された本について教えてください。

A:最近出したのは、名古屋大学名誉教授・若尾祐司先生との共編著『核と放射線の現代史』(昭和堂、2021年)です。福島原発事故に関しては、ひょっとしたら肝心の日本人よりもドイツの方々の記憶の方が鮮明な程ですが、核開発により目に見えない存在が人間社会に恐怖を与えている問題を歴史的に遡り、またコロナ禍とも結びつけながら考察した論集です。 それから、阪大との繋がりでは、『平和研究入門』(大阪大学出版会、2014年)という編著を出しています。これは、全学共通教育科目として2004年から行っている平和講義の教科書です。一昨年、ドイツのボーフム大学で教えていた時、この授業を受講したと、外国語学部出身の日本人留学生が声をかけてきてくれたのは、嬉しい思い出です。

 

Q:最後に、学生へのメッセージをお願いします。

ドレスデン聖母教会での公開講演(2018/2/20)

A:研究以前の問題として、世界に目を向けるという事が非常に大事だと思います。これは、外国研究であろうと、日本研究であろうと同じです。具体的に言うと、最近の日本のメディア報道は極めて質が落ちているので、もっと自分でニュースを発掘していくことが必要だと思います。ヨーロッパのニュースや韓国、台湾のニュースの方が日本より遥かに開かれていると思います。とにかく世界に目を向けてほしいです。それから、東京や大阪といった大都市に限らず、最近はインターネット上でも開催されることも多い、いろんな市民社会のイベントや集会にも興味を持ってほしいです。あれもこれも参加してみようという貪欲さや、好奇心を持っていることが大事だと思います。最近の大学院生は、自分の研究分野しか注目しない傾向があります。例えば、ドイツの研究をしている学生が「私はドイツ研究をやっているので、フランスや日本のことは関係ありません。」などと発言したら、あまりにも視野が狭いと感じます。特にOSIPPの場合は、法学、政治学、経済学を学べる学際性を特徴としていますが、修士論文の執筆ともなると、どうしても専門分野に閉じこもりがちになります。しかし、せっかくOSIPPで学んでいるのですから、意欲的に情報収集し、また、方法論的にも狭い専門分野を超えて隣接科学の成果を摂取してほしいと思います。

(OSIPP博士前期課程 欧陽銘浩