研究紹介教員

【研究紹介:河村倫哉先生】「文化横断的ネットワークを中心に据え共存原理の探求」

【研究紹介:河村倫哉先生】

「文化横断的ネットワークを中心に据え共存原理の探求」


シリーズ「研究紹介」では、OSIPPに在籍する先生方の最新の研究を紹介しています。今回は、多文化社会の規範理論を研究テーマにされている河村倫哉准教授にインタビューを行いました。

 

1.現在取り組んでおられる研究内容についてお聞かせください

端的に言えば、違った文化を持った人たちが同じ社会で共存するための秩序原理を考えています。 これまで考えられてきた秩序原理には大きく、統合主義と多文化主義があります。統合主義とは、人々は個人の自由としてどのような文化を持っていてもよく、国家はどの文化にも中立を保つという考え方です。しかし、この考え方だと、弱い立場の文化には衰えていく自由しかなくなることもあります。そこで多文化主義は、国家が中立から一歩踏み出して、積極的に少数文化を支援することを考えます。多様な集団が社会で存続できるように図るのですが、そのことが人々に集団を過剰に意識させ、限られた支援を巡って集団単位で争わせることにもなります。最近のポピュリズムでは、マイノリティ集団ばかり支援されることへのマジョリティの反感があると言われています。そこで統合主義と多文化主義を乗り越えるためにはどうしたらよいかということを考えています。人々が生きていくためには社会関係資本が必要です。必要な情報が他人からきちんと伝わってきたり、何かをしようと思ったときに他の人が手伝ってくれたりするような社会関係のことです。私たちがいきなり外国に住むと、子供をどの学校に通わせたらよいか分からなかったり、夜中に急病になった時に周囲の人が助けてくれるか心配になったりするのは、このような社会関係資本がないからです。マイノリティが自分たちの文化集団を特別に支援してほしいという時には、このような社会関係資本の回復を望んでいることがあります。すると、共存にとって社会関係資本の回復こそが重要であり、それができれば、あとは集団単位ではなく、各人が自由に好ましいと思う文化を追求していくのがよいと、私としては考えています。
社会関係資本は人々のネットワークから生じます。ネットワークは同じ文化の人だけで固まったものよりも、少しずつ異なった人々が文化横断的につながったものの方が有益です。子供の教育や夜中の急病のケースを考えても、いろいろな人から情報提供や支援の可能性があった方がよいわけです。そのようなネットワークづくりの取り組みとして、エスニックビジネスへの支援や、反うわさ政策などが考えられます。

フレディ・マーキュリー像の前にて(スイス・モントルー)

エスニックビジネスの場合、単に行政がマイノリティの起業を支援して終わるのではなく、起業家が一方ではマジョリティと取引を持ち、他方ではマイノリティを雇用するのを積極的に促すことが考えられます。そうすれば、マイノリティからマジョリティまで、大きな情報の流れや相互扶助の可能性を生み出すようなネットワークを構築することも可能です。 また、現在EUで行われている反うわさ政策も、文化横断的なネットワーク作りとして評価できます。この政策では、移民は優先的に公営住宅に入る特権を持っているなどのうわさが広まると、マジョリティの中の反うわさエージェントが他のマジョリティにそれは事実無根だと説得します。反うわさエージェントはマイノリティと接して正しい情報を得るなどのトレーニングを受けており、結果として彼らが結節点となってマイノリティと他のマジョリティをつなぐことになっています。 このように、少しずつ異なった人をつないで文化横断的なネットワークができれば、人々は取り立てて集団を軸に争うことなく、共存できるのではないかと考えています。

 

2.この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください

ボスポラス海峡前のカフェにて(イスタンブール)

OSIPPには実証的な研究者が多いのですが、私は抽象的な理論に惹かれて研究者になりました。
きっかけはミーハーで(笑)、社会科学の古典を読んでいると格好良いかもしれないと思い、大学2~3年生のときにマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読みました。非常に難しかったのですが、こんな理論を作れたら人生幸せだろうなと思いました。それが研究生活を考える最初のきっかけでしたが、もちろん今に至るまでそんな理論は作れていません。
多文化共生について考えるようになったのは、一つには、もともと外国に興味があって、旅行に行ったり地図を眺めたりするのが好きだったということがあります。マイノリティに興味を持ったのは、高校のクラスなどで人気者が中心に盛り上がっているのに対して、「何をしょうもないことではしゃいどんねん、みんなが面白いと思っていると思うなよ」と、私自身がマイノリティ意識を持っていたのがベースにあったかもしれません。ただ、だからといって拗ね切っているわけでもなく、クラスでも社会でも中心から隅まで何らかの形でつながっているのがいいんだろうなと、漠然と思っていました。それを正当化できる理屈を考えるのが、今の研究につながったのかもしれません。

 

3.この研究の魅力や面白いところはどんなところですか(最新の動向など)

 研究をしていく中で、色々な学説を読み、それらの長所、短所を整合的に説明できる新たな視点を見つけた時には達成感があります。(そのあと、すぐに別のアラが見つかって、がっかりすることの方が多いですが。)
 また、もしかすると自分の研究が世の中の役に立つかもしれないというのも、魅力の一つです。日本ではまだ欧米ほどポピュリズム政党が勢力を伸ばしていませんが、将来もそうならないように、今のうちから規範的に望ましく、しかも実現可能であるような共存の姿を、根拠をもって示せたらいいなと思っています。

 

4.大学院でこの分野を研究していくためには、どういった勉強をしておく必要があると思われますか (学部生時代にしておくこと、読んでおくと良い本など等)

多文化共生に関心があるなら、新聞の国際欄を毎日読んで、気になったところはスクラップするのがよいと思います。国際的な感覚がつかめるのではないでしょうか。

研究をしていく上で、難しい文章を読むための訓練は必要だと思います。一行一行緻密に読むというより、一回目は骨格だけ把握して、気になった細部は後で読み直すという方法を身につけるとよいと思います。論文を書く場合でも全ての先行研究を読み切った上で書き始めるのは無理なので、書きながら必要な論文を泥縄式に読んでいかざるを得ません。そのような時に速読のスキルがあると助かります。

私の研究分野で読んでおいた方がよい本として、キム・リッカ「多文化時代の市民権」(英語:Kymlicka(1995) “Multicultural Citizenship: A Liberal Theory of Minority Rights”)を挙げておきます。ただし、私も最初に読んだときから全部理解できていたわけではありません。

 

5.先生の指導スタイルや指導学生の研究テーマをお聞かせください

私の研究室の学生は、広い意味で多文化共生に関わる研究をしていますが、私よりも実証的な研究をしている人が多いです。研究会は週1回で各回1人が発表するというスタイルで行っています。学生は修士・博士合わせて5~6人なので、2ヶ月に1回程度発表が回ってきます。

研究室の雰囲気としては、自主性を重んじている方だと思います。こちらから学生の研究テーマを指定するようなことはなく、この本を読んで来いなどと言うこともありません。自分のやりたいことが明確な学生には向いている研究室かも知れません。ただ、全くの放任ではなく、質問や相談があればなるべく早く返事しています。

 

6.メッセージ

私たちが学生の頃は、文系で大学院に行くと研究者しか道がなかったのですが、今は院卒でも多様な進路があるので、気軽に研究生活を経験してみてはいかがでしょうか。大学院での勉強は研究の道に進まなくても役に立つことがたくさんあるので、興味があればぜひ入学を考えてみてください。

(OSIPP博士前期課程 海東冴香 インタビュー時期:2021年2月)


准教授 河村倫哉

学位 修士(社会学)

研究テーマ:多文化社会の規範理論

専門分野(キーワード): エスニシティ、自由主義、社会関係資本、ネットワーク 

代表的な業績:
(2018)「機会の平等の実質化と多文化共生」、『未来共生学』vol.5, pp.68-86
(2017) ‘Social Capital Approach for Explaining Ethnic Conflicts within a Liberal Society,’ International Relations and Diplomacy, 5(3), pp. 153-169

大阪大学研究者総覧(河村倫哉)

履歴:
1992  東京大学法学部卒業
1995  東京大学大学院社会学研究科修士課程修了
2000  東京大学大学院社会文化研究科博士課程単位取得退学
2000  大阪外国語大学外国語学部専任講師
2002  大阪外国語大学外国語学部准教授
2007  大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授(現在に至る)

トロントの摩天楼にて(カナダ)