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教員紹介:片桐梓 准教授

外務省勤務を経てからスタンフォード大学で博士号を取得され、シンガポールの南洋理工大学で教鞭を取られたのち、2022年4月1日付でOSIPPに着任された片桐梓准教授にインタビューしました。片桐先生は、国際関係論と計量政治学を専門とされ、主に国際紛争と危機外交との関連、国内政治と外交政策を研究されています。(写真:シンガポール・ラッフルズホテルにて)

 

 

現在取り組んでいる研究内容についてお聞かせください。

なぜ国際紛争が国際危機へとエスカレートし、さらには戦争につながりうるのか?この問題は、国際関係論の根源的な関心事であるといえます。この国際関係論の根源的な問題に対して、主に危機交渉と外交、政策決定者と国内世論、また、対外脅威認識という切り口からも研究しています。具体的には、機密解除された米国外交政策文書をデジタル化し、機械学習や統計分析を行い、既存の理論の実証分析を行うことで、新たな理論構築への手がかりを得たいと考えています。

 

この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください。

私が5年間留学していたスタンフォード大学は、国際関係論の危機交渉*の研究が活発であり、留学先で様々な先生や同僚と議論をする中で、この分野に興味を持ちました。従来、外交政策や国際危機における政策決定者の認知や議論そのものを、直接的かつ定量的に取り扱う形で危機交渉理論を実証分析することは、実際のデータがないことから難しいとされてきました。これに対して、機密解除された米国外交政策文書を大量にデジタル化し、これらのテキストデータに統計的なアプローチを用いることはできないだろうかと考えたのが、この研究に取り組むことになったきっかけです。この研究の過程で、外務省やワシントンの日本国大使館で外務公務員として勤務していた際の経験や、政府内の外交政策決定過程に関する見識が非常に役立ちました。
(*危機交渉:国際危機が起きた際、当事国がさまざまな手段で交渉し合意形成を目指す中で、なぜ交渉が失敗し、戦争が勃発しうるのかを考える研究分野。)

 

この研究の魅力や面白いところはどんなところですか。
これまで政治学者や歴史家が考えてきた定説や理論が必ずしも正しいとは限らず、むしろ逆であるかもしれないということを、定量的なエビデンスをもって実証できることが面白いところです。
データ分析だけではなく、歴史的事象に関する知識が当然ながら要求されるところも、こういった研究が興味深く、かつチャレンジングな部分だと思います。

 

大学院で先生が専門としている分野を研究するためには、どのような勉強をしておく必要があると思いますか。

一般的な社会問題や国際問題への関心を高めること、政治学に限らず社会科学、人文科学、自然科学など出来るだけ様々な学問分野に触れること(例えば統計学やデータサイエンス)、英語で学ぶことへのハードルを低くすることなどが必要だと思います。社会問題や国際問題を知るための入り口として、新聞等のメディアをチェックしておくことは有用だと思います。
また、機械学習に興味がある方には、スタンフォード大学のAndrew Ng教授が担当されている講義の動画を一度見てみて下さい。『CS229: Machine Learning』 この動画を見れば、機械学習の大体の基礎が分かるはずです。

 

最後に、先生の指導スタイルをお聞かせください。

理論や重要な概念を教える際に、学生が具体的なイメージと共に理解できるよう、身近でわかりやすい具体例を挙げつつ説明しようと試みています。

(OSIPP博士前期課程 千馬あさひ)

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准教授 片桐梓(かたぎりあずさ)

学位:スタンフォード大学(Ph.D. in Political Science)
研究テーマ:国際紛争、危機外交、対外政策決定過程、外交と世論
専門分野:国際関係論、計量政治学

<代表的な業績>
Azusa Katagiri and Eric Min. (2019). “The Credibility of Public and Private Diplomatic Signals: A Document-Based Approach”. American Political Science Review, 113(1), 156-172.

<現在関わっている研究プロジェクト>
国際危機における外交シグナルとチャンネルの選択に関するプロジェクト
コミットメントの信頼性と国際危機におけるエスカレーションに関するプロジェクト