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教員紹介:二羽秀和 助教

教員紹介:二羽秀和 助教


2022年4月1日付で国際公共政策研究科に助教として着任された二羽秀和先生にインタビューを行いました。二羽先生は、一橋大学大学院経済学研究科の博士後期課程(博士課程)を今年3月に修了されました。

 

 

現在取り組んでいる研究内容についてお聞かせください。

私は、日本銀行が2013年から実施している量的質的金融政策(Quantitative and Qualitative Monetary Easing; QQE)をテーマに研究に取り組んでいます。2013年以降、日本銀行は長期の日本国債を買入れてきました。この政策はインフレ率の上昇にいくらかは貢献し、日本経済に対して良い効果があったとよく言われます。しかしながら、理論的には、このような政策がどのような効果をもたらすのかはよく分かっていません。私は、特にQQEからの出口政策に関心を持っており、財政金融政策の相互作用の観点から理論分析を行っています。

 

この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください。

学部生時代から、財政金融政策の結びつきに関心を持っていました。2008年に発生した世界金融危機以降、多くの先進各国において公的債務対GDP比が急激に上昇しました。日本のみならず米国においても、公的債務対GDP比が上昇するという傾向が今後も続くことが見込まれる一方で、公債安定化のために必要な財政調整(政府支出の削減および増税)の計画は公表されていません。また、2013年から日本で実施されているQQEは十分な調査の上で導入されているものではありません。今後も現在の財政状況が続けば、公債安定化への財政当局の意思に対する人々の信認が失われ、財政の持続可能性を維持するために金融政策の変更が必要となり、それがインフレ率や経済活動に大きな影響を及ぼすことが懸念される帰結の1つであり、研究を行う上でのモチベーションでもあります。

ところで、標準的な(多くの教科書で学ぶような)金融政策分析においては、「財政当局が財政の持続可能性を維持することに対して責任をもつ」ことが暗黙理に仮定されています。この仮定の下であれば、中央銀行は財政の持続可能性に気を払うことなく自身の政策目標(インフレ目標など)を追求することができます。

しかし財政の持続可能性が危ぶまれる状況において、上記の標準的な仮定を前提として政策分析を行うのは必ずしも適切とは言えないのではないかと考えています。そのため私は、「財政当局が財政の持続可能性の維持に必要な財政調整を行わない」という仮定のもとで、QQEからの出口政策を分析しています。

 

OSIPP棟6階会議室前にて

この研究の魅力や面白いところはどんなところですか。

2008年に発生した世界金融危機以降、多くの中央銀行が長期国債買入れを実施しました。他方で、マクロ経済における標準的な理論モデルにおいては、中央銀行による長期国債買入はマクロ経済に一切影響を与えないことが知られています。このような結論を得るための必要条件の1つが、先ほど説明した財政当局に関する標準的な仮定です。したがって、「財政当局は財政の持続可能性の維持に責任をもたない」という仮定を置けば、長期国債買入はマクロ経済に影響を及ぼしえることになります。このように、仮定を変更して分析を行うことで、政策に関して新しい視点を提供できる点が魅力的だと感じています。

 

大学院で先生が専門としている分野を研究するためには、どのような勉強をしておく必要があると思われますか。

学部生の間は、経済学の基礎的な内容(ミクロ経済学など)をしっかりと理解することに時間を割くと良いと思います。ミクロ経済学の勉強には、神取道宏先生の『ミクロ経済学の力』を使うのが良いと思います。ミクロ経済学の知識はマクロ経済学を勉強・研究する上で必要になります。勉強する際には、数式だけを見るのではなく、その解釈を言葉で説明できるようになることを目指して下さい。論文を書く時に役立つはずです。

私が学部生の頃は、もともとマクロ経済学に関心があり、専門的な勉強をできるだけ早くこなしたいという思いもあったので、大学院レベルの教科書を読んだり、ゼミに積極的に参加したりしていました。加えて、自分が勉強していることに関連するトピックを追うために、定期的に日本経済新聞の記事のチェックもしていました。

 

最後に、先生の指導スタイルをお聞かせください。   

講義では、資料の作り方は説明の仕方も含めて受講生の手本となるように努めています。ゼミ形式の講義では、ゼミ生同士が議論をし合える環境を整えるように努めたいと考えています。今年は、学部生を対象に春夏学期に開講される『学問への扉(マクロ経済学入門)』というゼミ形式の講義を担当します。

(OSIPP博士前期課程 千馬あさひ)

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助教 二羽秀和 (にわひでかず)

研究テーマ:金融政策(主に財政金融政策の相互作用・非伝統的金融政策)

専門分野:マクロ経済学

学位:博士(経済学)(一橋大学)

<代表的な業績>

[1]「財政の持続可能性への信認が失われた下での量的・質的金融緩和政策からの出口」
金融経済研究 45 号(2022 年 3 月刊行予定)〔単著〕

[2]「人口高齢化が財政政策の有効性に与える影響-パネル VAR モデルによる分析」
フィナンシャル・レビュー2021 年第 2 号〔通巻第 145 号〕(2021 年 3 月刊行)pp. 32-48
〔共著者:森田裕史法政大学経済学部准教授〕

[3] “An Effect of Population Aging on the Effectiveness of Fiscal Policy: Analysis using a panel VAR model” , Public Policy Review, 17(3). (2021 年 11 月公表)
〔共著者:森田裕史法政大学経済学部准教授〕