教員

教員紹介:前川和歌子 准教授

OSIPP政治学系教員である前川和歌子先生にインタビューを行いました。前川先生は国際関係論や紛争解決学、平和研究を専門とされ、イギリスのエセックス大学において博士号を取得されました。近年では、外務省での専門分析員や名古屋商科大学での専任講師を勤められ、2022年9月1日付で国際公共政策研究科に准教授として着任されました。(写真:研究室にて撮影)

 

 

研究者を目指したきっかけのようなものはありますか?

学部生時代から紛争や内戦による被害に関心があり、日本で難民受け入れの仕事に携わった経験があります。その後、国際公務員などの実務家として平和構築に携わりたいとの思いもあり、エセックス大学の修士課程に進学しました。その修士課程で国際政治理論や紛争解決学を学んでいくうちに、現場で人道支援に携わるという手段以外にも、研究を通して紛争の再発防止などに貢献する道もあると考えるようになりました。どのような要因によって内戦が終焉したり、内戦国で被害が少なくなったり、平和が実現されるのかというメカニズム自体を明らかにすることで、政策に対して影響を及ぼせるような研究者を目指すようになりました。

 

これまでの研究について紹介していただけますか?

オンライン取材の様子(写真左:前川先生、右:筆者)

これまでは、内戦の終焉過程や、内戦における介入について研究してきました。内戦に第三国が介入するとき、その第三国が持つ内戦に対する選好が、和平合意の締結にどのような影響を与えるのかという側面や、和平合意が締結された後には、国連がどのように合意の履行を支えることができるのかをThe Uppsala Conflict Data Program (UCDP)等のデータを用いて研究してきました。また、内戦への介入が市民にどのような影響を与えるのかという観点にも焦点を当てています。例えば、軍事介入が反政府武装勢力の統治下にある人々の食糧問題や言語・信仰の自由といった「人間の安全保障」に及ぼす影響や、第三国が内戦国における政府への情報提供・分析を支援することにより、不正確な情報や不信に基づいた市民への暴力を緩和することに繋がるという事に関しても研究しました。最近は、介入の撤退にも注目し、特に国連の出口戦略(Exit Strategy)という観点で、撤退に伴う持続可能な平和への影響を幅広く研究し始めているところです。

 

現在の研究に取り組むことになったきっかけを教えてください

介入にはいつかは終わりがあるので、国連平和維持活動(PKO)が展開されている国において、最終的にPKOが撤退した後でも、どのような条件の下であれば平和が定着するのかに関心をもったことがきっかけです。ブルンジやスーダンなどいくつかの国では、最終的に受け入れ国がPKOの撤退を要求し、その代わりとして文民によって実施されるPolitical Missionという形で国連の介入が続いていきました。これまでPolitical Missionは実証研究の領域ではあまり焦点が当たっていませんでしたが、過去に設立されたPolitical Missionの52%ほどはPKOによる活動の後に展開されています¹。介入側が時間とともに関わり方を変えていく中で、受け入れ国の平和の定着のためにどのような戦略のもとでミッションの撤退に向かっていき、また、撤退戦略が実際に平和の定着にどのような影響があるのかに関心を持ちつつ、現在の研究に取り組んでいます。

¹ UN website (https://dppa.un.org/en/past-missions) をもとに計算しています。

 

この研究の魅力や面白いところはどんなところですか(最新の動向など)

これまでのPKOの研究では、PKOが内戦の終焉にどう影響を与えるのか、PKOが展開されている間、その活動が受け入れ国にどのような影響をもたらしているのかが研究されていました。他方で最近の研究では、撤退の後、その国はどうなっていったのか、PKOのレガシーに焦点を当てる研究も増えてきています。内戦の研究では、内戦の発生、継続、終焉、その後の平和構築など、時間軸で見ただけでも様々な観点で研究がなされています。一つ一つの研究で分かったことを包括的に見ることで、どうして内戦がなくならないのか、どのような条件の下でなら平和が定着し再発を防げるのかという、内戦と平和のメカニズムの全体像が少しずつ明らかになっていくことが、この研究の魅力なのではないかと個人的には思います。

 

豊中キャンパス学食「らふぉれ」前にて撮影

学生へのメッセージをお願いします!

皆さんそれぞれ興味や関心を持つことは異なると思いますが、1つの課題に対して実務家という立場や研究者としてなど、様々な関わり方があります。実務家であろうと、研究者であろうと、平和や紛争を考える際に、なぜそうなったのか、どの様なメカニズムがあるのかを考えていくこと自体に意味があるのだと考えます。それぞれの好きなこと、目指す道に向かって頑張ってください。

 

(OSIPP博士後期課程 平野歩)

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准教授 前川和歌子(まえかわわかこ)

研究テーマ:内戦、介入、平和構築

専門分野:国際関係論

学位:Ph.D. in Government(エセックス大学)

<代表的な業績>

[1]Maekawa, Wakako. 2022. “External intelligence assistance and the recipient government’s violence against civilians.” Conflict Management and Peace Science, online first.
[2]Maekawa, Wakako. 2019. “External Supporters and Negotiated Settlement: Political Bargaining in Solving Governmental Incompatibility” Journal of Conflict Resolution 63(3): 672-699.
[3]Maekawa, Wakako, Barıs Arı, and Theodora-Ismene Gizelis. 2018. “UN Involvement and Civil War Peace Agreement Implementation” Public Choice 178(3-4): 397-416.

<参画している研究プロジェクト>

Exit Strategy of UN Peacekeeping Operations and the Effects on Sustainable Peace