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8月の研究業績

OSIPP基幹講座教員の8月の研究業績をご紹介します。

・和仁健太郎 先生 
・鎌田拓馬 先生

 

 

 

和仁健太郎(判例評釈)

「域外軍事行動によって生じた人の死亡に関する調査義務―ハナン判決」『人権判例報』第8号(2024年)
104-111頁 https://www.maruzenjunkudo.co.jp/products/9784797259681

概要:本稿は、アフガニスタンにおけるNATOの軍事行動について欧州人権条約2条が適用された欧州人権裁判所判決(Hanan対ドイツ事件、2021年2月16日判決)に関する判例評釈である。欧州人権条約1条は、同条約の適用範囲について、「締約国は、その管轄内にあるすべての者(everyone within their jurisdiction)に対して、この条約の第1節に規定する権利および自由を保障する」と定める。締約国の領域の外にいる人が締約国の「管轄内」にあると言える場合(欧州人権条約のいわゆる域外適用)について、欧州人権裁判所の従来の判例では、①締約国が領域外の場所に対して実効的支配を行使する場合(the spatial model)と、②締約国が人の身柄を拘束するなどしてその人に一定の支配を及ぼす場合(the personal model)が挙げられてきた。最近では、③2条に基づく調査義務との関係で、①と②のいずれにも該当しない場合にも1条の意味での「管轄」の存在を肯定する判例が現れている。例えば、2019年のGüzelyurtlu事件判決では、(a)締約国の捜査機関や司法機関が捜査もしくは手続を開始した場合、または(b)捜査もしくは手続が開始されていなくても「特別の事情」が存在する場合には、2条の調査義務との関係で1条の意味での「管轄」が成立するとの基準を提示した。Hanan対ドイツ事件判決は、Güzelyurtlu事件判決が示したこれらの基準のうち(b)基準(特別の事情基準)を適用して、NATO軍の空爆により死亡したHanan氏は締約国(ドイツ)の「管轄内」にあったと判示した((a)基準については、Güzelyurtlu事件と本件との事案の相違を理由に適用を否定)。ただし、「特別の事情」の中身や「特別の事情」によりなぜ管轄の連関が肯定されるのかなどについては、本判決によって十分に明らかにされたとは言えない(例えば、本判決が「特別の事情」として挙げる事情は、域外軍事行動の文脈ではむしろ一般的な事情であり、どこがどう「特別」なのかを理解するのは困難である)。

 

鎌田拓馬(その他の記事)
「エネルギー革命による変化「炭鉱ヤクザ」の経済史」『週刊東洋経済』第7190号(2024年)
東洋経済オンライン2024/08/07:https://toyokeizai.net/articles/-/789484

概要:本稿では、1960年代の石炭から石油へのエネルギー革命が、長期的にヤクザの活動に及ぼした影響を検討する。エネルギー革命による炭鉱衰退で暴力団の資金源と勢力図が変化し、長期的にヤクザ組織間の縄張り争いが激化し、その影響は半世紀以上にわたることを示している。しかし、2010年代に制定された暴力団排除条例により、エネルギー革命がヤクザにもたらした長期効果の悪循環を部分的に断ち切ることが示唆される。