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【院生投稿】田中聡さん(博士後期課程)

【院生投稿】田中聡さん(博士後期課程)
フィールドワーク・リポート @ボスニア・ヘルツェゴビナ


現在、私はOSIPP博士後期課程2年に在籍しています。昨年9月から今年6月までの10ヶ月間、ボスニア・ヘルツェゴビナにて現地調査を行いましたので、その活動報告をさせていただきます。

 

博士前期課程の頃からボスニアを事例に紛争解決の研究に取り組んできました。ボスニアは旧ユーゴスラビアを構成していた共和国の一つであり、国内にボシュニャク人、クロアチア人、セルビア人の三つの主要民族を抱えています。1992年、ユーゴスラビアの解体に伴い、ボスニアでも三民族間での熾烈な紛争が発生し、1995年に国際社会の仲介の下で締結された和平合意、デイトン合意までの約三年半、戦闘が継続しました。紛争終結から約25年経つ現在まで紛争の再発は防がれてはきましたが、紛争後のボスニア政治は混迷を極め、三民族間の激しい対立からいまだに国家の再建は大幅に滞っています。いかにして民族間の対立を緩和し、三民族間の協調の下で政治運営を行うことができるのか、現在に至るまで多くの研究者が関心を寄せてきました。

選挙前の街並み

興味深いことに世論調査を見てみると、市民レベルでは民族間関係を問題視する人の割合はそこまで高くなく、むしろ多くの人が、紛争終結から25年経つ現在まで復興が遅々として進まず、経済的にも厳しさが続く状況の改善へと政治家たちには取り組んで欲しいと望んでいることが示されています。一方で、民族問題よりも経済状況の改善に取り組んで欲しい、他方で、選挙になれば民族主義的な政治家を選ぶ、この紛争後社会に暮らす人々の簡単には割り切れない葛藤を自分自身の肌で感じ取りたいと思い、約1年間、現地で実際に生活して調査を行うことに決めました。

 

ボスニアでは、サラエボ大学政治学部に客員研究員として所属し、現地の研究者らとも意見交換をしながら調査を進めました。一年間、なるべく時間を見つけては様々な地方の町へと訪れ、その地に暮らす人々と話すことで、彼らがどのような生活をしているのか自分の目でみることを心掛けました。それと同時に、博士論文の執筆に向けて、国立図書館にも通い、現地語の資料の収集も行いました。日本とは文化、気候、社会システムなど様々な面で大きく異なる土地での長期間の生活には苦労も多く、中々思うように調査が進められずフラストレーションが溜まる日もありましたが、それらも全て含めて、現地の視点に立ちボスニアの人々がどのような社会に暮らしているのかを学ぶことができた非常に貴重な経験だったと感じています。

 

首都サラエボ

現地調査を受けて、博士論文では、特に紛争後に市民たちが置かれる経済状況から、人々が民族主義的な扇動に賛同を示しているわけではないにも関わらず、そうした民族主義政治家を選ばざるを得ない社会構造の解明に取り組みたいと考えています。従来、紛争後の政治といえば民族関係を軸に考察されてきたところを、社会・経済構造から説明を試みる点で意義あるものになるのではないかと考えています。

今回の渡航には、大阪大学未来基金から研究助成をいただきました。加えて、今回の調査を行う上で重要になった現地での人脈は、博士前期課程の頃にOSIPPから助成金をもらい短期でボスニアへと訪れた際に築いてきたものでもあります。こうした留学、研究調査などを積極的に支援する仕組みが整っているところがOSIPPの魅力の一つだと思います。

(2019年8月)