【院生投稿】山下汐莉さん(博士前期課程)
大阪とグローニンゲンでの3年間:ダブル・ディグリー・プログラム
2020.3.25
大阪とグローニンゲンでの3年間
私は2017年にOSIPPに入学後、ダブルディグリープログラムの一環で1年間オランダに滞在しました。メディア学と国際関係論を専攻した合計3年間の修士課程における研究生活についてご紹介します。(写真:学部長宅でのパーティ。中央で白い洋服を着ている筆者。)
——オランダでの研究生活
学部3年次、グローニンゲン大学に1年間交換留学をした私は、大学院でもう一度オランダに戻れるダブルディグリープログラムに飛びつくように応募しました。しかし、私にとっての“アナザースカイ”で再び生活できることを喜ぶのもつかの間、 授業や課題に悪戦苦闘する日々が続きました。博士課程への進学を前提とするコースのため先生からの要求のレベルも高く、その上、完璧にやらなければと思う私の生真面目さが、自分の首を絞めていました。
授業の内容面でも、ヨーロッパやオランダの大学で当然のように教わる国際関係論や歴史の前提知識が抜けていることを痛感しました。実証主義、認識論、存在論、方法論、、などの哲学的な内容に、「そんなこと今まで考えたこともないわ!」というツッコミを毎日、心の中でしていました。
ただ日が経つにつれ、私も哲学に影響されたのでしょう。思考が日本語という非ヨーロッパ言語に依っていること、歴史をアジアの視点から学んできたこと、メディア学を学んできたこと、これらの全てが私の認識を形作っていることを、客観的に見つめることができました。この私の認識が、ヨーロッパ中心の知識が前提とされている国際関係論の授業にアクセントを効かせている気さえしてきたのです。
そもそも今までのディスカッションを振り返ってみると、クラスメートや先生の意見や視点が違うからこそ、議論が生まれ続けていました。学術界で名を馳せた先人たちも、異なる視点から意見を戦わせるという同じプロセスを踏んできたはずなのです。「意見の異なりの大切さ」に気がついた時には、時空を超えた議論であるアカデミック界の本質を覗いてしまった気持ちでした。
——就職活動
研究活動と並行して、就職活動も行いました。メディアの研究は大好きですが、実際にメディアで働いてみないと分からない側面にも以前から興味がありました。新卒でヨーロッパの法人で働くことはとても難しいことだと実感したため、 まずは日本の企業で取材する力をつけようと決めました。結果的に、オランダで培った多様な視点を想像できる力や、曖昧な概念を言語化する力をもって、報道機関でファーストキャリアを積めることになりました。入社を前に、取材でどんな人に話を聞けるのか、どんな場所にいけるのか、そして研究をどう活かすことができるか、とてもワクワクしています。
——最後に
オランダから帰国後、修士論文の執筆には大変苦労しました。メディア学と国際関係論をカバーした英語での論文執筆は、想像以上に時間がかかりましたが、OSIPPとグローニンゲン大学の先生からのダブルの支援のおかげでなんとか書き上げることができました。最後に、私が2つの修士課程を経験して最もよかったなと思うことは、「人生なんでもあり」ということを、大阪とグローニンゲンでたくさんのバックグラウンドをもつ人生に触れて実感できたことです。学術界には唯一の答えというものがなく、議論に終わりがないのと同様に、「これが正解」といえる人生はないのだと、年齢も性別も国籍も、話す母語も違う友人との繋がりの中で学びました。これから例えどんなに大変なことがあっても、自分の気持ちに正直に、周りの環境に常に感謝しながら生きていきたいと思います。