2020.3.25
今回は文系の研究で見かけることの珍しい実験を使った研究を紹介したいと思います。
OSIPP経済系教員の北村先生の研究の一環として行われている実験で、国立研究開発法人情報通信研究機構の研究者の方との共同研究だそうです。
実際に実験内容・展望について北村先生にお伺いしてみました。
今回の実験内容:
実験内容としては、人間の脳活動が話し言葉に対してどう反応するかについて調べるものです。ここから人間の選好ができるプロセスに関する知見を得られればと思っています。
この調査に際し、約100人の被験者を募集し、脳波計を使って、話し言葉に対して脳がどのような反応をするか計測しています。
経済系の先生が話し言葉の反応を見るとは意外な気がしますが:
人間は何らかの選好(好き嫌い)を持っていると経済学や政治学では仮定するのですが、それがどこからやってくるのか通常議論されません。ですので、今回の実験で選好形成について何かヒントが得られたらいいなと考えています。
例えばあなたがある作家の小説が他の作家の小説より好きだとして、その「理由」を答えられるでしょうか。確かに文体が綺麗だとか、世界観が好きだとか、色々と理由はあるかと思いますが、じゃあ、どうして綺麗な文体や、ある特定の世界観が好きなのでしょうか。こうやって考えていくとあるものを好きな「理由」はよくわからなくなります。つまり、選好がどうやって形成されるのかについては未だにブラックボックスなのです。
我々は常に外から入る情報に晒されています。例えば、綺麗な景色とか、美味しいご飯とか、今朝読んだ新聞の記事とかです。恐らく、そういった外的なものが脳内で処理されて選好が形成されているのだろうとは思いますが、そのプロセスはよくわかっていません。情報の中でも特に「言葉」の情報量は膨大です。
こういうわけで、言葉と脳活動の関係に着目することにしました。
脳波計を使うという手段を選んだ理由:
アイデア自体は、米ロチェスター大学でポスドクをしていた時(2016年頃)に着想しました。脳科学者の友人に、色々と相談にのってもらっていました。阪大に来てから脳情報通信融合研究センター(CiNet)の存在を知り、コンタクトを取ってみたところ今の共同研究者に出会えました。脳活動を調べるには、MRIを使うなど幾つか方法がありますが、人間の意味理解を解明する手法として脳波が使われたりします。
実験の展望:
今の段階ではなんとも言えません(笑)。ただ、選好形成を理解する上で面白い発見があることを期待しています。
専任講師 北村 周平(きたむら しゅうへい)
学位 博士(経済学)(ストックホルム大学)
専門分野:経済発展論、政治経済学、実験経済学
代表的な業績:
Kitamura, Shuhei and Nils-Petter Lagerlöf (2020) “Geography and State Fragmentation”, Journal of the European Economic Association, forthcoming.
実は、記事を書いている私もアシスタントとしてこの実験のお手伝いさせていただいています。実験の最中、被験者の方の脳波を見る機会があるのですが、いちアシスタントにはそこから何がわかるのかは全然わかりません(笑)。
実際に論文として発表され、「なるほど、こう分析できるのか!」と思える日が来るのが待ち遠しいです。
(OSIPP博士前期課程 海東冴香)