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【院生紹介】JSPS特別研究員インタビュー 田中聡さん

【院生紹介】JSPS特別研究員インタビュー 田中聡さん


今回は、2020年度日本学術振興会特別研究員となられた、博士後期課程3年の田中聡さんにお話を聞きました。
研究者を志した理由や経緯、将来の展望問題などを語ってくださいました。

 

 

研究の内容:
大きなくくりで言えば、民族間で起こる紛争の解決手法についての研究をしています。紛争の解決とひとくちに言っても様々な見方がありますが、私は特に民族間の対立の背景にある政治経済的な要因に関心を持って研究を行っています。

そもそも民族紛争の政治経済的要因に関心を持ったのは、民族紛争が民族のナショナリズム運動の高まりによって引き起こされているという一般的なイメージに対して、本当にそうなんだろうかと思ったからです。もちろん民族的アイデンティティの高まりは紛争を引き起こす一要因になりうるとは思います。ただ、そうした好戦的な民族のイメージではなく、紛争が起こるとたくさんの死者が出て、たくさんの人の人生が狂わされてしまう中、たとえ多くの市民が平和を望んでいたとしても社会が紛争へと向かってしまう、その背景となる社会構造を探っていきたいと考えています。

こうした問題意識を踏まえて、より具体的な研究としては、現在、紛争解決の手法として広く用いられるものであり、民族紛争の和平合意を結ぶ際の一般的なデザインである「パワーシェアリング」をテーマに、これが本当に効果的なのかを、この解決法をとった典型的な事例であるボスニアに着目して研究しているところです。

 

研究者を志した経緯・理由:
端的に言えば政治学の勉強が楽しくて、のめり込んだからという理由が大きいです。小さい頃から振り返ってみると社会現象に対して強い興味を持つ子どもだったなとは思うのですが、その中でも小2で9.11が起きたことは個人的に強く印象に残っている出来事です。その後のアフガン戦争、イラク戦争をはじめ、物心ついた頃から常に世界には何かしらの紛争起こっており、この紛争の解決に関わりたいと思いはじめました。

そこで大学進学段階では国際機関で働きたいと思い、とにかく大学院までは行こうと決めていました。しかし大学に入学してみると国際関係論の授業が面白く、アカデミアに行きたい気持ちがでてきました。また、OSIPPに入ってからは、同期・先生に恵まれて、みんなと研究の話をするのが楽しいと感じ、研究者として紛争解決に貢献する道もあると考え始め、今の研究者になるという道の決意に至ります。
 

サラエボの風景

今までの研究成果や活動:

今までの研究といえば、D1から1年間ボスニアのサラエボ大学で研究員をしていたので、そこでのインタビューやホームステイで得た生の声や、向こうから持ち帰った資料をまとめて論文にしようとしているところです。
このときのフィールドワークは英語でできることが多かったのですが、地域研究者として現地の言語は話せるようになりたいので、独学で勉強したり、サラエボにいたときに受けた言語の授業などをもとに頑張っているところです。

 

日本学術振興会特別研究員になってみて:
日本学術振興会特別研究員になるというのは通過点ではありますが、自分のテーマを認めてもらえた気がして、1つ自信がついたと思います。また、やりたいことを金銭的な心配なく挑戦できるようになったというのはうれしいところですね。新型コロナウィルスの流行がなければ、海外の学会など金銭的な心配をせずにいけるようになりましたし、バンバン行って勝負したかったのですが、そこは残念ですね。

実は私は日本学術振興会特別研究員への挑戦を3回していまして、今回やっと通りました。結果を知らせるメールが来るときは、何度目であっても非常に緊張するものです。特別研究員になれなかった2年間は通った同期など見るとおめでとうという気持ちと、自分の中での焦りと両方ありました。一方で、特別研究員へのアプライは毎年自分の研究を振り返る機会として重要な時間だったなと思いますし、自分がこのタイミングで特別研究員になれたことに意味はあるのだろうと思っています。せっかく頂いた機会ですので、じっくり自分の博士論文に向き合っていきたいと思います。

 

研究者としての将来の展望:

研究者として、まず学術的な研究の面で成果を上げたいと思うのはもちろんなのですが、そこで閉じるのではなく、実際の社会、紛争の解決の現場にも直接関われたらと思っています。研究というのは研究の枠の中でとどまってしまうことが往々にしてあるとは思うのですが、現場と学問の行きができるような研究者になれることが理想ではあります。

また、政治分野の研究は理論研究と地域研究にわかれることが多く、確かに様々な政治現象の法則性を一般化して捉えようとすることと、それぞれの事例が持つ固有の特性を深く探求することでは研究のベクトルが異なるように思われるのですが、私はどちらもできる研究者になりたいと思っています。様々なアプローチに対してなるべく柔軟な研究者でありたいと思っていまして、そのためにはもちろん勉強が日々必要になると思うのですが、根気強く頑張りたいと思います。

これらが長期的な目標ではあるのですが、より直近の話では、今書いている論文をなんとか国際雑誌に投稿できるように頑張りたいと思っています。また、海外の研究者らとも積極的にコミュニケーションを取って、国際的に研究の成果を発表していきたいなと思っています。そのためにどんな今後のキャリアを選んでいくべきなのかの選択は非常に判断が難しいところがありますので、とにかく今はやれることから着実に、一歩ずつですね。

 

今後研究者を目指す後輩へのメッセージ:

研究者という道は成果が出るのにも時間がかかったり、思ったようにいかなかったり、周りが気になったりと、不安の大きいものだと思います。私自身、まだまだ修行中の身である中でアドバイスできることはありませんが、自分自身で今大切にしていることは、「自分で考え、決断する」ということです。研究に取り組む中で、同期や先生など、周りの方からアドバイスをもらって成長していくことは大切だと思っています。一方で、研究の世界とはこれまで考えられてきた通説に沿うのではなくて、これまで考えられてきたことと違うことをする、証明することに価値があります。ですので、人の意見を聞きすぎるのではなく、自分の意志や直感も大切にして、「自分で考え、決断する」ことが非常に重要だと思っています。何が正しいかはわからないし、人のアドバイスを聞いてやってみるときれいにいくことは多く、特に先輩や先生方の方が自分より沢山の知識を持っているので「正解」に導いてくださることが多いかもしれません。ただ、「自分」の研究である以上、どのような選択をするにしても、自分なりの根拠をもって実行していくことが重要だと思っています。

ただ、結局のところ、体が資本なのでまずは健康を大切にしてください!研究者はキャリアが不安定なので、やろうと思えば痕を詰めてやりすぎてしまうところがあります。頑張れるときは頑張ったら良いですが、研究は短距離走ではなくマラソンだと思いますので、長期的に取り組めるように、健康第一で頑張ってください!

                        (OSIPP博士前期課程 海東冴香)