研究紹介OSIPP Community教員Works

教員紹介:高橋秀典 准教授

OSIPP経済系教員である高橋秀典准教授にインタビューを行いました。高橋准教授はトロント大学において経済学博士号を取得し、マンハイム大学と一橋大学においてテニュアトラック講師として就任した後、2020年4月に国際公共政策研究科准教授として着任されました。

 

 

現在取り組んでおられる研究内容について教えてください:

契約理論やオークション理論、及びバーゲニング理論を基に構造推定の手法を用いたデータ分析を主に行っています。例えば、公共工事の調達においては、オークションにより複数の業者の中から最も有利な条件を提示した業者に契約を発注するのですが、その際、価格だけでなく、デザインや工事計画も評価対象になることがよくあります。しかし、デザインの質というのは客観的に評価することが難しく、評価者の間で評価に大きなばらつきがあり、このばらつきはデザインの評価プロセスがどれほどの不確実性をふくんでいるのかを示しています。そこで、私はこのデザイン評価に関する不確実性がどう入札者の行動に影響を与えるのか、米国フロリダ州の公共工事データを用いて分析しました。結果として、デザイン評価に関する不確実性が大きくなると、入札者は同じ質のデザインをより高い価格で提供するという推定結果が得られました。不確実性が大きくなるとある程度の価格差がみられてもオークションにおける勝率が変わらないため、落札額が大きくなるよう入札価格を上げるというものです。このようにデザイン評価に関する不確実性が入札者の行動を変えることで、結果的に多くの税金が工事業者に支払われる可能性を示唆しています。

 

この研究に取り組むことになったきっかけをお聞かせください:

学生時代に指導教授の実証産業組織論の授業を受け、ゲーム理論と計量経済学を用いて、経済モデルと実際のデータをマッチする実証研究があることを知ったのが始まりです。企業間や個人間の戦略的な関わり合いをデータで捉えられるのが面白いと感じました。同僚の研究者とアイデアを出し合い、実現可能かつ文献に対して貢献できる課題かどうか議論を重ね、この研究に取り組むことになりました。

 

この分野の魅力や面白さは、どのような点でしょうか:

この分野では、上記にあるように経済モデルとデータを融合した構造推定という手法がよく用いられます。最近では膨大な量のデータが使えるようになりましたが、その一方で研究者が観察することが難しい要素(例えば、生産コスト等)も多々存在します。こういった観察が難しい要素や、識別の難しい複数の要素を経済モデルと観察可能なデータを用いて識別し、推定できるのが構造推定の面白さだと感じています。

 

大学院でこの分野を研究していくために、どういった勉強をしておく必要がありますか:

ミクロ経済学と計量経済学などの基礎知識は勿論ですが、この分野ではプログラミングを多用するため、SatataやMatlab、R等のプログラミング言語に慣れておくことが望ましいと思います。

 

最後に、先生の指導スタイルについて教えてください:

学部生に対しては、プロブレムセットを中心に基礎を固めるように、院生に対しては、最新の研究書をリーディングさせることで自ら研究の問題を深められるように指導しています。

<推薦教材>
タイトル:Empirical Industrial Organization: Models, Methods, and Applications
著者:Victor Aguirregabiria

 

            (OSIPP博士後期課程 内輪雅史)

インタビュー時期2020年7月


准教授 高橋 秀典(たかはし ひでのり)
学位:Ph.D. from University of Toronto (Economics)
研究テーマ:オークションモデル、契約理論、バーゲニングモデルを用いた実証研究
専門分野:産業組織論

<代表的な業績>
1, Takahashi, (2018), “Strategic design under uncertain evaluations: structural analysis of design-build auctions”, The RAND Journal of Economics, Vol. 49, Issue 3, pp.594-618
2, Boik and H. Takahashi, (2020), “Fighting Bundles: The Effects of Competition on Second-Degree Price Discrimination”, American Economic Journal: Microeconomics, Vol. 12, Issue 1, pp.156-87

<参画している研究プロジェクト>
・Bargaining with Delay in Litigation (with T. Honryo and Y. Takahashi)
・Strategic Delay in Dynamic Nonlinear Pricing (with J. Ishida)
・Bidding for Contracts under Uncertain Demand (with Yao Luo)