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国連大使を終えて 星野俊也教授インタビュー

「国連大使を終えて」
星野俊也教授 インタビュー


今回は2017年8月1日より3年間国際連合日本政府代表部大使・次席常駐代表を努められ、今年8月1日付でOSIPPに戻ってこられた星野俊也教授にインタビューしてまいりました。

 

 

研究の概要
多数国間外交を通じた秩序・制度・政策の形成を研究しています。多様な政治経済体制、社会文化的背景をもつ国々で共通の仕組みを作っていく大変さと面白さに関心があります。以前は主に平和と安全の分野での研究業績が多かったですが、今回、国連大使として経済社会問題も幅広く担当したので、SDGsや開発・環境・保健・防災など、関心と理解が深まりました。人間の安全保障という考え方には、理論と実務の両面から議論を深めたいと思っています。

研究と実務つなげるスタイル
私の学者ないし大学教員としてのスタイルは、学生時代からずっとお世話になっていた恩師で日本人女性で初の国連難民高等弁務官(UNHCR)となり、国際協力機構(JICA)理事長も歴任された故緒方貞子先生を見習い、研究と実務を切り離すことなく、世界の一人ひとりにとってよりより世界になるよう考え、実践する、というもの。私の学者としてのキャリアのなかで外務省に籍をおいての仕事は今回で3回目ですが、大使レベルで活動できたので、多くの重要な案件についてかなりアクティブに動けたと思います。

国連大使としての生活
第一義的には日本の国益を背景に国連の場で存在感を示していくことが大使の大きな役割ですが、日本は国際公共利益の推進にも貢献しています。様々な案件を通じ、国連に加盟する193カ国の多くに互いに brother/sisterと呼び合える同僚を持てたことはうれしく、今後もネットワークを広げていきたい。なお、トンガの次席代表はOSIPPの博士で私の教え子でした。
政策面では人間の安全保障に主眼を置く国際協力の主流化に力を注ぎました。新型コロナのパンデミックは世界中で人々の生命、生活、尊厳のすべてを直撃する、まさに人間の安全保障に関わる未曾有の危機と考えたためです。これは去る9月26日の菅総理の国連総会演説にも反映されています。
また、東京オリンピック・パラリンピックは延期になってしまいましたが、日本が提案した国連総会のオリ・パラ停戦決議では私自身も支持固めに回り、186カ国の共同提案でコンセンサス採択できたのは感動的でした。他方で、日本など主要ドナー国が不合理と考える国連行財政関係の決議案が、私も率先して絶対反対の姿勢を貫き、総会の議事進行手続き面での不備などを提起したにもかかわらず、目の前で途上国側の絶対多数であえなく通過してしまうなど、国連の可能性と限界は十分に体験させてもらいました。
また、着任当初の4ヶ月、日本は安保理の非常任理事国で、国際の平和と安全に関するバランスのとれた重要な役割を果たしました。ですが、2年の任期が終わり、2018年1月1日から安保理の外に出るととたんに躍動感や情報量の違いも出てきて、一定の悲哀を感じたのも事実です。安保理改革に向けた現実の壁は大きいですが、やはり日本は常任理事国として安保理に籍を置き、活躍すべき国との思いは強くしています。

写真:2017年12月21日 国連安保理の会合で議長をしている場面。

 

国連大使を終えて
国家間の政治的な関係を超えた個人の信頼関係の大切さは改めて実感したように思います。確かに国際政治の現場ですから案件によっては立場の違いや対立も免れませんが、大使同士の信頼関係が維持できているおかげで対話のチャネルを常にオープンにできたことなどは個人としても喜びであり、また業務を遂行する上でも大いに役立ちました。

今後について
学問と実務をつなぐという問題意識は常に持ち続けたいですね。一般的には学問と実務を切り離す考え方が多いですが、少なくともOSIPPはこの二項対立をそもそも脱却する観点から設立された大学院だと思うので、OSIPPの皆さんとともによりよい世界や社会を築くべく、両者の断絶の払拭をしていきたいものです。緒方先生を見習い、私も引き続き学問と実務をつなぐ実践をしていくので皆さんも一緒にトライしてほしいと思っています。
私の研究室の出身者は多くが大学教員や外務省員、国連やNGOのスタッフなどで活躍してくれていますが、在学中から外務省の専門調査員や海外での留学や研修に派遣をしていました。学生のときから政策の現場に身を置くことで教科書を離れて活躍していったような卒業生をたくさん送り出しましたので、引き続きそのような学生を育てられれば、と思っています。
私は大学での研究・教育にとどまらず、外務省や国連機関、あるいはSDGsに取り組む民間企業などから相談を受けることも多いので、今後もそうした連携は続けていくつもりです。

学生へのメッセージ
繰り返しになりますが、公共政策を学び、研究するOSIPPの学生には、在学中から政策実務に関わる経験をしてほしいです。そして政策実務においていちばん大切なのは当事者意識を持つことだと思います。人々をつなぎ、いかなる仕組みのなかでどこまで何ができるのか、できなければ何をどう変えたらよいのか、そうした発想を当事者意識をもってできるようになってほしいと思います。そこには人々や社会のニーズや声を聞き、的確なビジョンを打ち立てることが必要で、またビジョンを実現するには、法と政治と経済のリソースをミックスすることが必要です。OSIPPでは助言をくださる先生はたくさんいますからどんどん吸収していってもらえればと思います。多様な視点をOSIPPで学ぶことは、社会や世界をよりよい方向に変えることにつながります。学問と実務は別物と考えることなく、皆さんがその両者をどう橋渡ししていけるのか考え、世界で活躍してほしいと思っています。

写真:国連総会議場での演説の一場面

(OSIPP博士前期課程2年 海東冴香)