【院生投稿】齊藤瑠香さん(OSIPP博士前期課程)
2021.10.25
「モラトリアムとしての大学院」
現在、博士前期課程2年次に在籍しており、松野明久教授の研究室に所属しています。専門は紛争後の平和構築で、修士論文はカンボジアにおける移行期正義というテーマで執筆中です。2年間の大学院生活もあと半年という時期に差し掛かっています。今回は、学生生活の振り返りと今後の展望を記したいと思います。
OSIPPに進学した理由
私は3つの理由でOSIPPに進学しました。一つ目は、将来的に国際機関で働くという目標を持っているからです。紛争国や紛争影響国で苦しんでいる人々に支援を届ける仕事がしたいと思い、国際連合世界食糧計画(WFP)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のような機関を志望しています。職種にもよりますが、国際機関での勤務には修士号を求められる場合が多いのが実情です。私の場合は、学部を卒業し一度就職してから大学院に行くという選択肢もありましたが、平和構築を学ぶ情熱を冷めさせたくなかったため、進学を決めました。二つ目は、平和構築に関する研究を続けたかったからです。OSIPP入学前は同志社大学法学部で国際関係を専攻していました。同志社大学での学部生時代には1年間の交換留学を経験し、興味のある分野を広く学んだおかげで、4年次に突入する頃には平和構築に関する研究を追及したいと思うようになりました。その後、大学院の2年間でしっかり研究がしたいと考え、平和構築の研究を専門とする先生がいらっしゃるOSIPPを選びました。三つ目は、OSIPPが就職に強いところです。博士後期課程まで進むことは考えていなかったので、前期課程修了後に様々な就職先の実績を持つOSIPPは魅力的でした。
研究内容
カンボジアにおける移行期正義をテーマとして、ポル・ポト政権時代に起こった人権侵害をめぐる国民和解の障壁について、加害者/被害者の個人アクターに着眼して研究しています。移行期正義とは、過去の大規模な人権侵害と向き合い、平和な社会に移行していくための試みを指します。刑事裁判や真実委員会といった、国家や国際社会が主導で「上から」行われることが主流ですが、私は“平和な社会”の実現には、実際に人権侵害の加害者/被害者となった「個人」に目を向けることが重要だと考えています。昨今のコロナ禍により現地調査に赴くことができず、現在は過去の先行研究、国際機関やNGOの報告書などに関する文献調査が中心ですが、研究を進めれば進めるほど新たな発見に出会え、自分の主張を構築していくことがとても面白く、一日でも早くカンボジアに行きたいと思う毎日です。
今後の展望
博士前期課程修了後は外資系総合コンサルティングファームに就職予定です。今後どのフィールドでも通用する自分になるために、まずはコンサルタントとしてリサーチ力や課題解決力を身につけつつ、ビジネス経験を積みたいと考えています。また、研究に対してはコロナ禍による影響でフィールドワークに行けなかったこともあり、志半ばです。従って、将来はイギリスの大学院で平和構築に関する学びを深め、その後は国際公務員として勤務するという目標への歩みを進めたいと思います。
大学院に進学するということ
将来、もし私が自分の大学院生活を振り返ることがあれば、「あの時期は自分自身を見つめ直し、やり残したことを片付け、万全な準備をして社会に出るための、まさにモラトリアムな期間だった」と、現在の生活を思い出すのではないかと思います。学部生の時とは違い、OSIPPの授業は決して楽ではありませんが、国際関係の知識はもちろん、英語力、プレゼンテーション力、そして論理的思考力を鍛えることができました。また、授業の傍らに参加した薮中塾グローバル寺子屋の活動、京都の国際協力NGOやJICA国内事務所でのインターン、シンクタンクでのアルバイトなどを行い、現在は研究に没頭しています。学部の4年間よりはるかに濃密な時間を過ごしています。文系の大学院進学は風当たりが強い世の中なので、友達は皆、既に就職して働いているということに焦りを感じる時もありましたが、どのように心に折り合いをつけるかは自分次第だと実感しました。私の大学院生活がコロナ禍に重ならなければもっと…と嘆けばキリがないですが、私は胸を張ってモラトリアムを楽しむことができています。
2021年8月 地元の北海道帯広市にて(撮影時のみマスク無)