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【院生投稿】菅 嘉恩さん(OSIPP博士前期課程)

【院生投稿】菅 嘉恩さん(OSIPP博士前期課程)


現在は博士前期課程2年次に在籍中で、修士論文の締切に追われているところです。今回は大阪大学外国語学部からOSIPPに進学した理由や、OSIPPでの研究についてお話したいと思います。
(写真:2018年ヨルダン滞在中に訪れたペトラ遺跡)

 

 

イスラエルでの出会いと大学院進学

私は学部生時代、大阪大学外国語学部でアラビア語を専攻していました。世界史好きの父の影響で、幼少期から中東という地域に魅せられ、高校生になって世界史を勉強し始めてからは、エルサレムを取り巻くイスラエル・パレスチナ問題について特に関心を持ち始めました。大学では中東について勉強したいと思い、中東で広く使われている言語であるアラビア語を専攻するに至りました。学部3年次の後期からは1年間休学し、国際NGOのボランティアとして、トルコ、レバノン、イスラエル、パレスチナを訪れました。このうちイスラエルで過ごした3か月間は、私の人生のターニングポイントと言っても過言ではありません。イスラエル事務所の職員のほとんどがイスラエル人で、その3か月間は彼らと寝食もともにしていました。「アラブ側の視点」に慣れていた私は、イスラエル・パレスチナ問題への彼らの本音や思いに触れながら、今度は「イスラエル側の視点」を覗いてみたい、また、国際政治という分野からこの問題を研究してみたいと思うようになり、大学院への進学を決めました。

 

外国語学部からOSIPPへ

オリーブ山から見たエルサレム旧市街(2018年)

私は国際政治と併せて国際法にも関心があったのですが、法学・政治学・経済学の3分野へのアクセスが可能であるという学際性もOSIPPへの進学の決め手となりました。

OSIPPへの進学を決めたもう一つの理由は、私の現在の指導教員である松野明久教授でした。私は国際政治の中でも紛争研究や平和構築研究をしたかったので、その分野で指導して頂ける先生を探していたところ、当時OSIPPの研究科長でいらっしゃった松野先生と出会いました。外国語学部の学生であった私は、当然、松野先生とは何の接点もなかったのですが、大学院でイスラエル・パレスチナ問題について研究したいと思っていることを話すと、親身になって相談に乗ってくださいました。入学後も研究のみならず色々な相談に乗ってくださり、こうして親身になってくださる先生と出会えて、OSIPPに入学して良かったと心から思っています。

外国語学部では、アラビア語を専攻しつつ、アラブ文学やアラブ文化、そしてアラビア語の言語学など、アラブ世界に関することを幅広く学んできました。その一環としてアラブの政治を学ぶ機会もありましたが、私はその授業以外で政治学などを体系的に学んだことはなく、その分野に関しては読書で得た程度の知識しか持ち合わせていない全くの初学者でした。大学院入学前にはそのことに不安を持っていましたが、OSIPPには私のように他の分野から進学してくる学生も多く、入学してからでも法学・政治学・経済学の基礎を学べる科目が開講されていたおかげで、すんなりと研究を始めることができました。

 

OSIPPでの研究

パレスチナ・ラマッラーの街並み(2018年)

現在研究しているテーマは、イスラエルの政治思想のひとつである「シオニズム」についてです。シオニズムとは19世紀末にヨーロッパを中心に誕生した、ユダヤ人国家建設を目指すイスラエルの政治思想であり、1948年のイスラエル建国の理念である一方、パレスチナ問題を生み出した思想でもあります。私は、初期のシオニストであり「イスラエル建国の父」と呼ばれるテオドール・ヘルツルについて研究しており、コロナ禍でなければ、イスラエルやヘルツルと関わりの深いヨーロッパ諸国に直接足を運びたかったのですが、残念ながらそれが叶わなかったため、松野先生のご指導のもと、日本で入手できる文献を頼りに、修士論文の執筆に励んでいるところです。普段は院生室にこもって一人で黙々と作業を進めていますが、定期的に行われる研究会では、松野先生からのアドバイスに助けられているのはもちろんのこと、同じ研究室の同期2名からも毎回良い刺激を受けており、行き詰っている時には励まし合ったり、他愛のない話をしたりして息抜きをしています。コロナ禍ゆえに様々な制約がありますが、それでも日々の研究に勤しめるのは、こうした同期の存在も大きいと実感しています。OSIPP入学前は、大学院では一人で黙々と研究に打ち込むのかなと思っていましたが、今こうしてこの原稿を書きながら、自分が思っていた以上に先生方や同期に助けられたり、励まされたりしていて、そのおかげで研究に向かうことが出来ているのだということに気付きました。OSIPP卒業後は国際協力に携わる仕事に就く予定ですが、卒業後もこうしたOSIPPでの出会いを大切にしたいと思います。

ヨルダン滞在中に訪れたペトラ遺跡(2018年)