セミナー・シンポジウム

西村陽氏 (関西電力 ソリューション本部シニア・リサーチャー) 特別講義

2021年11月25日、OSIPP棟6階会議室にて、赤井伸郎教授の授業である「プロジェクト演習(行政組織のガバナンス)」 の一環として、関西電力ソリューション本部シニア・リサーチャーの西村陽氏による特別講義「カーボンニュートラルに向けた情勢と関西電力グループの取り組み」が行われた。対面とオンラインのハイブリッド形式で実施され、赤井ゼミの大学院生を中心に約20人の学生が参加した。

 

この特別講義では、カーボンニュートラルへの取り組みの最前線で活躍されている西村氏が、日本が抱える課題に対し、大手電力会社である関西電力としてどのような対策が講じられるのかについて述べ、さらには一人ひとりがどのような問題意識をもって環境問題に向き合うべきかについて話した。講義の後半には、西村氏と学生との意見交換が行われた。

講義冒頭、西村氏は日本のカーボンニュートラルの現状に対し、「2050年のカーボンニュートラルの実現はとても厳しい」と見解を述べた。その理由は、再生可能エネルギー導入への様々な障壁が存在することや、導入できたとしても再生可能エネルギー100%で電力系統を構成することは現在の人類の技術ではまだ厳しいといった技術的な要因など、山積している課題が多いためとのことであった。こうした問題に関しては、これまでは、技術革新、適切な政策、使用する側(需要側)の行動変容、そして持続的なファイナンス(公的資金、民間資金)が脱炭素社会に向けて一体となっておらず、持続的なシステムとして確立されていないことが原因であると説明した。

さらに、西村氏は需要側とエネルギーを供給する側それぞれにとってメリットのあるカーボンニュートラルモデルの重要性を説いた。開発途上国での電子機器の生産、改良が当たり前になったことにより、需要側の機器を活用できる可能性が広がったことがその一因であるという。つまりエネルギーを効率よく使用し、その能力を電力システム全体に活用するモデルの展開を重要視しているとのことであった。例えば、電気自動車を定額料金で一定の期間利用するサブスクリプションなど、エネルギーのスマートな利用方法を通して、顧客との結びつきに力を入れて取り組んでいるとのことであった。西村氏は、持続可能なカーボンニュートラル社会の実現にとって重要なのは、電力の供給と需要の担い手が多元化イノベーションのための協働をどのように編み出すのかに尽きると論じた。
また、日本の現状として、カーボンニュートラルに関する政策は市場や民間のビジネスと密接に連携している部分が多く、それがイノベーション創出において他の先進国に遅れをとっている一因であるとも話した。今後の日本にとって重要なことは、技術革新を進める産業界、個人や企業である需要側、そして双方を後押しする国が協働してイノベーションに向かうことであると見解を述べた。

筆者は、現実的に、日本でのカーボンニュートラルの実現や、再生可能エネルギーの発展はどこまで可能なのかといった疑問を持っていたが、この講義を聞くことでこれらの疑問に対する日本の現状を把握することができた。「2050年のカーボンニュートラルの実現はとても厳しい」とのお話は筆者にとって衝撃的だったが、脱炭素社会の実現に向け、決められた予算や優先順位の中で脱炭素社会を実現していくことの難しさを実感した。

(OSIPP博士前期課程 藤本忠良)

西村陽氏(手前左側)・赤井伸郎教授(手前右側)・対面での参加者(2列目)  ※撮影時のみマスク無