セミナー・シンポジウム

第1回ESGインテグレーション研究フォーラム「気候変動と科学とESG」
服部正氏(文部科学省 環境科学技術推進官)が基調講演

2022年1月21日、第1回ESGインテグレーション研究フォーラム「気候変動と科学とESG」が大阪大学豊中キャンパス法経講義棟2号教室とオンラインのハイブリッド形式で開催された。
このフォーラムは昨秋始動したOSIPPのESGインテグレーション研究教育センター(ESG-IREC)の主催(文部科学省後援)で、今回の基調講演には本学出身の文部科学省研究開発局環境エネルギー課の服部正 環境科学技術推進官が招かれた。フォーラムには大阪大学の学生だけでなく、学外からも多くの参加があった。

 

はじめに、ESG-IRECのディレクターである星野俊也OSIPP教授から開会の挨拶があり「大阪からの発信で、国際公共政策という学問分野からESGインテグレーションを進めていきたい」とESG-IREC設立の所以を話した。また、今回のフォーラムに際し、気候変動はESGのトピックの「1丁目1番地」であり、それに対して科学のもつ役割は大きいと語った。

服部氏の基調講演では、冒頭で気候変動の現況について話した上で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の活動が紹介された。IPCCとは、1988年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立された政府間組織で、国際条約の交渉や各国の政策立案の礎となる気候変動の評価報告書を、科学的・技術的・社会経済学的見地から包括的に、科学的中立を重視して作成している。この報告書は1990年以降5~7年ごとに作成され、報告書が新しくなる度に人類が温暖化に影響を与える可能性をより強く示唆するようになり、2021年に発表された第六次報告書(気象庁HPより)ではその影響を「疑う余地がない」と表現したことが紹介された。

講演後半では、気候変動に纏わる意思決定と科学の果たす役割について話した。その中で、現在は気候変動対策の中でも温室効果ガスの排出を抑制する「緩和策」に重きが置かれ、自然や社会活動を気候変動に合わせて調整する「適応策」についてはあまり議論が盛り上がっていないことを説明した。また、欧米と比べるとまだまだ少ないが、日本でも気候ベンチャーが昨年9月に誕生したと紹介した。今後、気候サービス産業がビジネスとして確立され、データをもとにコンサルティングが行われるようになれば、社会に必要とされる分野となると述べた。最後に、昨今は気候変動に関する研究は自然科学がメインとなっており、社会科学の研究が不十分だが、人の理解を促し、行動を変容させるには社会科学の力が重要であることを説いた。

参加した学生からの質問を受ける服部氏

服部氏の講演後、ESG-IRECの研究教育に従事する浅井將雄招へい教授、戸田洋正招へい教授、服部結花招へい准教授からのコメントや質疑に加え、学生や聴衆からも多くの質問が寄せられた。2025年の万博開催も視野に大阪・関西における炭素循環社会のあり方なども含め、活発な議論が交わされた。

また、フォーラム終了後には、参加者らから服部氏に対して中央官庁でのキャリアについての質問をしたり、参加者同士でディスカッションをしたりと、積極的に意見が交換されていた。

 

服部正氏(左)と星野俊也先生(右)で記念撮影

筆者にとって、これまでの気候変動の枠組みの変遷や現在の科学技術の進展と課題について学べたことは、気候変動の起きている地球でこれからも生きる者の一人として、とても興味深いものであった。特に、人間の経済活動が二酸化炭素の排出の主たる要因であるにもかかわらず、経済分野からの研究が進んでいないことや、人を心から動かすには社会科学の力が重要であるという言葉は、国際公共政策研究科で経済学を専攻する学生として、心に響いた。

(OSIPP博士前期課程 中瀬悠)