セミナー・シンポジウム修了生

千々和泰明氏(防衛省防衛研究所)特別講演

2022年5月26日、OSIPP修了生(国際公共政策博士)である、千々和泰明氏(防衛省防衛研究所 戦史研究センター安全保障政策史研究主任研究官)をお招きし、「戦争はいかに終結したか ―理論と歴史、そしてウクライナ戦争への示唆―」と題した特別講演が開催された。申込者多数により急遽OSIPP講義シアターに教室を変更する盛況ぶりで、参加者の関心の高さが伺えた。

 

 

講演会の冒頭で、OSIPP准教授南和志先生から、千々和氏が内閣官房副長官補付主査を務めた経歴があり、数日前に刊行されたばかりの千々和氏の著書『戦後日本の安全保障 ―日米同盟、憲法9条からNSCまで―』(中央公論新社、2022年)を含めた多数の研究業績にふれた上で、千々和氏は実務・研究双方から日本の安全保障政策に関わってこられたとの紹介があった。

講演では、千々和氏が2021年に出版した『戦争はいかに終結したか ―二度の大戦からベトナム、イラクまで―』(中央公論新社)をベースに、終戦に関する理論について事例を交えて説明がなされた。

具体的には、戦争終結の形態は優勢勢力側の「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」のジレンマのなかで決まるとのことであった。「紛争原因の根本的解決」を優先すれば「現在の犠牲」が増大し、「妥協的和平」を求めれば「将来の危険」が残るというトレードオフの関係にあり、そのバランスで戦争終結の形態がグラデーションのように変化する。講演最後のウクライナ情勢に関する説明では、同理論は優勢勢力を中心とするものであるが、劣勢勢力側(ウクライナ)が優勢勢力側(ロシア)にとっての「将来の危険」を低減させるか、優勢側の「現在の犠牲」を増大させることにより優勢側判断に影響力を持ちうる可能性が理論的にはあり得るとの指摘があった。

質疑応答では、「『将来の危険』や『現在の犠牲』を判断するアクターの選好をどう捉えるのか」「提示された事例は全て米国が優勢のケースであり、同理論はそれ以外の場合にはどの様な示唆を得られるのか」など高度な学術的議論が交わされた。

 

講演内容は現在進行形のウクライナ情勢や今後の世界情勢を考える上で非常に有益な視点を提示し、「出口戦略」の重要性を喚起するものであった。なお、千々和氏は研究者であると同時に実務者でもあるので、その両方の資質を兼ね備えた“公共政策プロフェッショナル”の養成をミッションとするOSIPPにとって、理想像を体現し社会で活躍をされている先輩と議論できたことは、参加した学生にとって大変有意義な機会となったのではないだろうか。

(OSIPP博士後期課程 平野歩)

左から筆者・千々和泰明氏・OSIPP准教授 南和志先生・法学研究科教授 高橋慶吉先生