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教員紹介:髙田陽奈子 准教授

OSIPP法学系教員である髙田陽奈子先生にインタビューを行いました。髙田先生は国際人権法を専門とされ、京都大学大学院法学研究科において博士号を取得された後、京都大学での特定助教や日本学術振興会特別研究員等を勤められ、2022年4月1日付で国際公共政策研究科に准教授として着任されました。
(写真:豊中キャンパスにて撮影)

 

 

現在取り組んでいる研究内容についてお聞かせください

欧州人権裁判所での審理の様子
(欧州人権裁判所HPより)

私の主要な研究分野は国際人権法です。近年、人権条約が国内法秩序に浸透し、人権条約機関の国内法秩序における影響力が増大しています。例えば、ヨーロッパの国々は地域的な人権条約である「ヨーロッパ人権条約」に加入していますが、この人権条約によって設置される、ヨーロッパ人権裁判所の判決には法的拘束力があり、そのような判決によって国内法を改正あるいは廃止する必要性が出てくることもあります。また、国内裁判の過程において人権条約違反があったと判断されれば、国内裁判のやり直しが命じられる場合もあります。このような現象は、人権条約の「実効性」という観点からは望ましいのですが、他方で、人権条約機関が、国内の民主的プロセスによって多様な権利や利益が慎重に調整された結果をいとも簡単に覆してしまうことの「正統性」についての批判も高まっています。そこで、私は、人権条約の「実効性」と「正統性」を両立させるべく、人権条約の国内法秩序への浸透・人権条約機関の国内法秩序における影響力の増大といった現象が生じるメカニズムや、そのような現象によって生じる弊害とその解決策について研究しています。

 

この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください

私は、高校生のときにカナダのインターナショナルスクールに2年間留学する機会をいただき、様々な国・地域の出身の生徒たちと、文化や宗教等の価値観の違いを乗り越えて友情をはぐくむ経験を得ました。しかし、現実世界では、各国が、異なる文化・宗教等の価値観や、経済的利益、安全保障上の利害関係等を有しており、そうした違いによって深刻な争いや衝突が生じることもよくあります。世界の国が、平和裏に共存し、地球規模の課題の解決のために協力するためには、様々な違いを越えて国家間の対話を可能にする共通の枠組みが必要です。今日では、どのような国も、国際法の権威を認めており、国際法に基づいた議論に多かれ少なかれ参加していることを考えれば、国際法こそが、そのような共通の枠組みとして、国際社会における紛争の平和的解決や共通の目的の実現のために役立つのではないかと考え、興味を持ちました。留学で得た、国を越えた価値や目標の共有は可能であるという希望と、世界の現実との間での葛藤は、私が国際法・国際人権法を学ぶなによりの原動力になりました。大学入学後に参加した国際法模擬裁判を行うサークルでの活動での経験は、私の国際法に対する興味をより一層強めてくれました。

現在研究している国際人権法についてですが、人権という価値自体は国際社会において普遍的に共有されているはずなのに、その具体的な内容や保障の方法の話になるとたちまち共通の基盤が失われ、文化的、宗教的、経済的、歴史的、そして社会的な背景に基づく深い溝が立ち現れます。私は、そうした溝を乗り越えて普遍的な人権保障を実現していく過程に理論的側面から参加したいと考え、国際人権法の研究を行っています。

 

この研究の魅力や面白いところはどんなところですか

国際人権法は、人権保障という重要な価値の実現に貢献するという点で、実際的な意義も高いのですが、学術的にみても面白い点が多いです。まず、国際人権法は、国際法の1分野でありながら、国家間の水平的な関係を規律する伝統的な国際法とは異なり、従来国内公法が規律してきた、国家とその国家の管轄下にある個人との間の垂直的な関係を規律しており、従来は国家の一部として扱われてきた個人に直接権利を認めるという点において国際法の中でも特殊な構造を持った分野です。さらに、人権法による規律は、その他の分野と比べて、国家による公権力の行使のより広範な側面により日常的に関連してくることから、国内法秩序との関係において、よりデリケートな調整が必要となります。そして、国際法の実現過程には、人権条約機関をはじめとして多種多様なアクターがかかわっており、それらのアクターの間で生じる相互作用の結果、人権条約の実現のあり方は日々変化し、発展しているのです。国際人権法の分野には、これらのような特殊性に起因する実践的・理論的な難題が日々生じており、それらに挑戦するのは大変面白く、やりがいがあります。

 

大学院で先生が専門とされている分野を研究するためには、どんな勉強をしておく必要があると思いますか

まずは、国際法全体を体系的に学習しておくことが必要です。しかしながら、国際法をただインプットするだけでは、実際にどのような場面で役立つのか、あるいはどのような不都合が生じることがあるのかについて学ぶことができないので、国際的な問題を取り扱うニュースなどをチェックしながら「どういう国際法に関連するか」といったことを考える癖を身に着けておくのもよいと思います。法律は実社会と深く結びついているので、社会、経済、政治など幅広く興味を持っておくことも大事だと思います。

また、国際法・国際人権法に関する文献や資料のほとんどは英語で、フランス語やスペイン語、ドイツ語、あるいはよりマイナーな言語でしか存在しない場合もあります。このため、英語で文献や資料を早く正確に読む訓練を少しずつでも良いのでしておくことが望ましいです。そのうえで、その他の言語能力を身に着けておけば大学院に進学した際に大きな武器となります。

 

最後に、先生の指導スタイルをお聞かせください

講義においては、学生が主体的に考え、論理的に表現する訓練をする機会、そして、せっかくOSIPPには多様な国籍・アカデミックなバックグラウンドを持つ学生がいるのですから、学生間でそれぞれの異なる経験・視点を共有できるような機会を提供できるように心がけています。また、関連する最新の事例を積極的に紹介し、生きた国際法・国際人権法に触れてもらえるよう努めています。現在はOSIPPで開講されている「演習(International Human Rights Law Ⅰ)」(後期は「演習(International Human Rights Law Ⅱ」)を担当しています。法律系の学生さんだけでなく、政治やメディアを専門とされる学生さんたちも受講してくれています。

研究指導においては、個々の文献や判例を丁寧に読み緻密に分析することのみならず、当該問題の実践的なインプリケーションを理解することや、当該問題を国際法・国際人権法のより大きな文脈の中に位置づけてとらえることについても指導できればと思っています。

(OSIPP博士前期課程 千馬あさひ)

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准教授 髙田陽奈子(たかたひなこ)

研究テーマ:
(1)人権条約機関と個別の国家機関との間の関係
(2)国際人権法における「国家機関間規範」
(3)人権条約の民主的正統性

専門分野:国際法・国際人権法

学位:博士(法学)(京都大学)

<代表的な業績>

[1]Hinako Takata, “NHRIs as Autonomous Human Rights Treaty Actors: Normative Analysis of the Increasing Roles of NHRIs in UN Human Rights Treaties,” Max Planck Yearbook of United Nations Law, Vol. 24(1) (2021).
[2]Hinako Takata, “Reconstructing the Roles of Human Rights Treaty Organs under the ‘Two-Tiered Bounded Deliberative Democracy’ Theory,” Human Rights Law Review, Vol. 22(2) (2022).
[3]Hinako Takata, “How are the Paris Principles on NHRIs Interpreted? Towards a Clear, Transparent, and Consistent Interpretative Framework,” Nordic Journal of Human Rights, advance online publications (2022).
[4]髙田陽奈子「人権条約における個別の国家機関の位置づけ――単一の国際法的実体としての『国家』の解体(1)~(6・完)」法学論叢188巻2号(2020年)~190巻1号(2021年)