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教員紹介:生藤昌子 教授

教員紹介:生藤昌子 教授


OSIPP経済系教員である生藤昌子教授にインタビューを行いました。生藤先生は2022年4月1日付で国際公共政策研究科の教授に着任されました。専門は環境経済学、マクロ経済学で主に環境政策について研究されています。

 

 

現在取り組んでいる研究内容についてお聞かせください

私は現在、グローバル規模で行う必要のある地球温暖化政策と各国固有の自然環境保護が両立できないケースを研究しています。例えば、太陽光発電のためにソーラーパネルを設置することは地球温暖化対策として有効であると同時に、パネルを設置した地域における景観や自然環境を害している可能性が考えられます。このように、ある地球温暖化政策が自然環境などに与える目的以外の影響について、国際貿易の静学モデルで理論的に分析しています。また、別の研究として、“気候変動に対する人々の認知の変化”にも着目しています。数十年前は地球温暖化に懐疑的な人も多くいましたが、現在は環境問題に関する多くの情報が発信され、それによって人々の認知も変わってきていると思われます。人々の認知は環境政策に多大な影響を与えるので、どのように認知が変化しているのかは重要な研究テーマの一つです。

 

環境経済学に取り組むことになったきっかけを教えてください

私が経済学理論を基に環境問題に取り組むことになった理由は、経済学原理の一つである“トレード・オフ”という概念が環境政策を考える上で最も重要であると考えているからです。“トレード・オフ”とは、あるプロジェクトや経済活動を実行しようとすると、代替的な活動が同時に実行できないという考え方です。破壊されてしまった生態系は元には戻らないため、環境保護や汚染削減が必要であるのは言うまでもありません。ただ、それらの活動を、いつどの程度行うのか、また、それらは人々の日常生活を犠牲にしてまで行う必要があるのかを考える必要があります。

 

環境経済学の魅力や面白いところはどんなところですか

オンラインでのインタビュー時の写真

環境経済学は、例えば温暖化対策等の環境政策について、二酸化炭素削減・気温上昇抑制や、経済への正の波及効果など、政策がもたらす便益と政策実施に伴う費用の分析をもとに実行可能な政策提言を行います。ただ、分析に必要となる情報の全てがデータとして観測できるものではなく、不確実性も大きいため、分析結果も仮定に依存します。そして費用・便益評価に関しても多様な基準が存在します。しかし、何を基準に評価するのかが定まると、理想論やイデオロギーなど異なる次元の意見に影響を受けず、社会にとって最善な政策を経済学は提言することができるところが、面白いところです。

 

大学院でこの分野を研究するためには、それまでにどんな勉強をしておく必要があると思われますか

研究分析手法は大学院で身につけることができるので、学部生時代には、常に問題意識を持つように心がけて欲しいと思います。分析手法があってもリサーチ・クエスチョンがなければ研究が成り立ちません。生活の中での身近な気づきをさらに深く掘り下げていくことが大切です。

 

最後に、先生の指導スタイルや指導学生の研究テーマをお聞かせください

ゼミ生や授業の受講生の多くは、軽い興味から参加し、問題意識が明確でないことが多いと思います。授業では様々な事例や意見を紹介して学生に意見を尋ね、それぞれの興味を明確にできるようにしています。研究では自分の研究分野だけでなく、物事を多面的に見て、批判的に考察することを重要視しているので、学生とそのような議論ができることを楽しみにしています。

(OSIPP博士前期課程 大谷知弘)

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教授 生藤昌子(いけふじまさこ)

研究テーマ:
[1] 地球温暖化政策及び自然環境政策
[2] 世界経済不況の下での環境政策
[3] 気候変動に対する人の認知の変化と温暖化政策

専門分野:マクロ経済学、環境経済学

学位:博士(経済学)(大阪大学)

<代表的な業績>

[1] Ikefuji, M., Laeven, R.J.A., Magnus, J.R., and Yue, Y. (2022) “Earthquake risk embedded in property prices: Evidence from five Japanese cities,” Journal of the American Statistical Association, 117 (537) pp. 82-93.
[2] Ikefuji, M., Laeven, R.J.A, Magnus, J.R., and Muris, C. (2020) “Expected utility and catastrophic risk in a stochastic economy-climate model,” Journal of Econometrics, 214 (1) pp. 110-129.

<参画している研究プロジェクト>

[1] Green industrial policy and international trade in wood pellets (with Stefan Borsky)
[2] Environmental policies and stagnation in an open economy (with Yoshiyasu Ono)
[3] Revealing priors from posteriors (with Jan R. Manus and Takashi Yamagata)