教員

【研究紹介:大槻恒裕教授】
「フードロスを削減しエシカル消費が実現する社会を目指して」

シリーズ「研究紹介」では、OSIPPに在籍する先生方の最新の研究を紹介しています。今回は、開発経済学、国際経済学を専門に研究されている大槻恒裕教授にインタビューしました。

 

 

 

現在取り組んでいる研究内容についてお聞かせください

現在、国際的なサプライチェーンへのフードロス削減技術導入の費用便益に関する研究を行っています。経済学の立場から、フードロス削減技術を導入する際の費用とメリットを明らかにして、持続的な社会経済システムを構築することを目指しています。現在、世界ではまだ食べられる食料の約3分の1が廃棄されているという推計があり、フードロスは深刻な課題です。私の研究ではバナナを対象として、コンジョイント分析と呼ばれる経済学的手法を用い、一般消費者のフードロス削減の取り組みを行っている企業に対する価格プレミアム(どの程度なら追加的に費用を支払う意思があるのか)を測定しました。最終消費点である消費者の価格プレミアムが高いことは、生産者や供給者の側にもフードロスに取り組む経済的な誘因を生むため、サプライチェーン全体でのフードロス削減につながります。将来的には、消費者だけでなく、生産者や供給者側にも目を向けてフードロス技術導入に関する費用及びメリットを分析し、政府の介入はなくともサプライチェーン全体で持続可能な社会を実現できるかを見極めたいと考えています。

 

この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください

以前から、食品の安全規制が国際貿易やサプライチェーンに与える効果に関して研究を行っていました。食品安全規制の存在は消費者の安心を高めますが、過度な規制は貿易を阻害してしまいます。一方で、フードロス削減問題についての研究は、たとえば鮮度をより正確に管理する技術の導入などを通じて、食品の安全性向上にも貢献しており、そのことが結果的に国際貿易の円滑化にも繋がるのではないかと思ったことが、今回の研究を始める一つのきっかけです。また、フードロス削減技術の社会への導入に関しては、今まで技術を開発する側の視点が強かったのですが、経済学者の立場から関わることで、異なる視点を提供できるのではないかと考えました。

 

この研究の魅力や面白いところはどんなところですか

この研究は大阪大学での「革新的低フードロス共創拠点プログラム」の一環として行っており、工学研究科と協調して進めています。今回の研究に関しては、経済学と工学、とりわけ生物工学のそれぞれの強みを生かすことができている点が面白いと思っています。工学系研究者には、特定の技術、たとえば鮮度を維持する具体的技術などに非常に詳しいという強みがある一方、経済学では、実際に鮮度が保存されて、サプライチェーン全体でどんな変化が起きるか、消費者の評価がどのように変化するかなど、社会全体を俯瞰的にみることができる強みがあります。本プログラムでは、異なる分野間での協力がよい影響をもたらしていると思います。現在までの研究で、バナナに対する価格プレミアムの分析では、消費者は企業によるフードロスの削減を評価するが、その程度は低いということがわかりました。つまり、現時点で日本人全体としてフードロスに対する意識が高いわけではないことが分かりました。今後、社会全体でフードロスを削減するためには消費者への啓蒙が重要で、消費者がフードロスに対して、より高い関心をもつことが必要と言えます。

 

先生の指導学生の研究テーマをお聞かせください

私が専門とする開発経済学では開発途上国の様々な問題を扱うため、学生の研究テーマも多岐にわたります。例えば、難民による受入国の労働市場等への経済的影響、自然災害や地球温暖化の途上国の貧困への影響、また、中国の環境政策の経済パフォーマンスへの影響など、途上国が現在直面している問題への経済的処方を模索する様々な研究に取り組んでいます。

 

最後に、学生へのメッセージをお願いします

研究では、安易に手法に頼りすぎず、常に分析結果が一般的な感覚と整合的か検証して欲しいと思います。自分の分析内容を客観的に振り返ることが大事です。また、執筆段階においては、読み手に伝わるように書くことに努めて下さい。自分の研究成果を他者に、正確に伝えることは容易ではありません。他者に分かりやすく書くことの重要性を理解し、辛抱強く、推敲に推敲を重ねて取り組んでほしいと思います。

(OSIPP博士前期課程 大谷知弘)

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教授 大槻恒裕(おおつきつねひろ)

研究テーマ:フードロスの経済分析、国際貿易と経済発展、食品及び製品安全規制と国際貿易

専門分野:開発経済学、国際経済学、環境経済学

学位:農業資源経済学博士

代表的な業績:
[1] Yang, Qizhong, Keiichiro Honda, Tsunehiro Otsuki (2019), “Structural Demand
Estimation of the Response to Food Safety Regulations in the Japanese Poultry Market” Eurasian Business Review, vol.9, pp.1-19
[2] Matsumoto, Shigeru, and Tsunehiro Otsuki (2018), Consumer Perception of Food Attributes, CRC Press.
[3] Honda, Keiichiro and Tsunehiro Otsuki (2017), “Effects of Chemical Safety Standards on Production Cost in Malaysia and Vietnam.” in Michida, Etsuyo, Humphrey, John, Nabeshima, Kaoru (Eds.), “Regulations and International Trade: New Sustainability Challenges for East Asia.” Palgrave Macmillan, 316pages (pp.201-221)

<参画している研究プロジェクト>
「革新的低フードロス共創拠点プログラム」
「製品安全規制の国際生産ネットワークにおける垂直的波及と誘発的技術革新の実証分析」