セミナー・シンポジウム

第2回統計実践ワークショップ 開催

2023年1月13日(金)、OSIPP棟6階会議室で第2回統計実践ワークショップが開催された。このワークショップは、大阪大学の人文学・社会科学系の研究科に所属する研究者のうち、データを用いて統計分析を行う教員間の交流を目的として企画されており、今回は人間科学研究科の五十嵐彰准教授、OSIPPの鎌田拓馬准教授、人文学研究科の菅原裕輝特任助教の3人による研究発表が行われた。

 

五十嵐彰准教授(人間科学研究科)

人間科学研究科の五十嵐先生は「誰が不倫をするのか」というタイトルで、不倫について社会学の観点から研究して得られた知見を発表した。発表内ではデータの収集方法について詳細な説明があった。不倫などの社会的に望ましいとされない事柄に関して調査データを収集する際には、回答者が正直に回答しないことにより、社会的に望ましくない行動の実行や支持が実際よりも過少に報告されやすいということが知られており、その問題を克服するために考案された「リスト実験」という手法が紹介された。「リスト実験」では、回答者をランダムに介入群(一般的な質問に加えて、研究者が調査したい質問Xも尋ねるグループ)と対照群(質問Xは尋ねないグループ)に分け、それぞれ回答してもらう。今回の調査での質問Xは“不倫の経験の有無”を問うものであるが、個別の質問に直接YesかNoで回答する必要はなく、全体でのYesの回答の個数のみを報告する。もし介入群と対照群の回答数の平均値に差があれば、その差は不倫をしたことがある人によってもたらされたと解釈することができるシステムであり、この手法で不倫の実情を調査できると紹介された。発表の終盤では、この調査によって得られた結果が発表され、妻より相対的に賃金の低い男性や、協調性の高い女性が不倫をしやすい傾向にあるとのことであった。

鎌田拓馬准教授(OSIPP)

OSIPPからは鎌田先生が”Bless or Curse for Organized Crime? The Long-term Consequences of An Energy Transition from Coal to Oil on the Yakuza”というタイトルで、エネルギー革命が現代の組織犯罪に与える長期的な影響についての研究を発表した。1960年代の石炭から石油へのエネルギー転換によって炭鉱業が衰退したという歴史的背景をもとに、炭鉱労働者が失業した場合、それまで鉱山で取り仕切り役などとして密接に関わりのあったヤクザの組織に加入するという仮説を立て、その仮説を検証するためのデータの構築方法や分析手法について説明した。エネルギー革命後、炭鉱会社の競合が多かった地域や炭鉱労働者の失業率が高かった地域では、半世紀以上経った現在もヤクザ組織の数が多く、異なるヤクザの組織間の競争が激しいという分析結果が示された。発表後の質疑応答では、分析で用いられた差の差分法やイベントスタディに関しての質問が寄せられ、参加者は発表者による詳しい解説を通して分析手法の理解を深めた。

人文学研究科の菅原先生は「デジタル科学哲学研究の紹介」というタイトルで発表した。筆者は時間の都合により退席したが、デジタル科学哲学というデータサイエンスなどの計算論的手法を用いる比較的新しい分野についての紹介がなされた。

 

本ワークショップには様々な研究科に所属する教員や学生約20人が参加し、データの収集・構築方法や分析手法を中心に質問がなされ、所属する研究科の垣根を超えた活発な交流の場となった。データを用いて統計分析を行う共通点があるとしても、それぞれの専門分野によって扱うトピックやアプローチが異なるため、OSIPPの教員と他研究科の教員による研究発表や議論の様子を見ることができたことは筆者にとっても大きな学びとなった。 

(法学部国際公共政策学科 池内里桜)