セミナー・シンポジウム

薮中三十二特任教授 OPEN教室
「Turbulent World and Japan: New Challenges for Japan」

2023年7月10日、元外務省事務次官の薮中三十二OSIPP特任教授による「Turbulent World and Japan: New Challenges for Japan」と題したOPEN教室が開催された。今回のOPEN教室はOSIPP棟2階講義シアターにおいて対面実施の予定であったが、諸事情により急遽ハイブリッド開催となった。今回も日本のみならずアジアやヨーロッパ、アフリカなど多様な国籍の方々が参集したことによりグローバルなOPEN教室となった。

冒頭で中嶋啓雄OSIPP研究科長による開会挨拶および外務省で長年活躍されてきた薮中先生の紹介があった後、講義に入った。薮中先生は、まずウクライナ情勢について触れた。ロシアがウクライナを侵攻した理由については様々な解釈が存在するが、侵攻開始前に外交による解決の余地はなかったのか?との問いを提起した。今後の展望について、ウクライナは反攻作戦において失地の一部は取り返すだろうが全てではないため戦闘は続くとしつつ、ワグネルによる反乱の件など予測不可能なことも起こりうる可能性についても言及した。またヨーロッパからの支援継続の有無や、来年に控えたアメリカ大統領選挙により状況が変化する可能性を指摘した。そして、ウクライナのNATO加盟は非現実的であり、和平交渉を進める必要があるが、それにはアメリカのみならず中国も大きな役割を担うべきだと主張した。

次に米中対立について述べた。日本における「アメリカが対中依存からの脱却を目指している」という言説について、半導体などの最先端ハイテク領域においては米中デカップリングが進んでいるのは確かだが、全体としては依然として米中貿易は堅調であり完全な脱却からは程遠いと分析した。バイデン政権の対中姿勢は”not confrontation but competition(対決ではなく競争)”である。日本にとってアメリカは重要な同盟国であるが、日米間における微妙な温度差について詳細に注視する必要があると指摘し、日本だけ勇み足にならないように注意を喚起した。日中関係については、「自由で開かれたインド太平洋」の原則を維持しつつ、中国のCPTPP(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)加盟に協力し、さらに東シナ海における日中中間線に関する重要な合意である2008年の「日中間の東シナ海における共同開発についての了解」をうまく活用すべきと主張した。最後に、日本は引き続き日米同盟の強化および一定程度の防衛力強化を進めつつ、外交の有用性および可能性を追求することが大切であると繰り返し強調した。

今回のOPEN教室においても、複雑で見通しが立たない国際情勢に対する薮中先生の鋭い分析を存分に味わうことができた。特に先生自身の経験を交えながら繰り出される様々な指摘や、時に奇抜な提案は目を見張るものがあり、他では得られない貴重な機会となったのではないだろうか。

(OSIPP博士後期課程 平野歩)