2024.2.5
OSIPP基幹講座教員の1月の研究業績をご紹介します。
・山下拓朗 先生
・前川和歌子 先生
・髙田陽奈子 先生
山下拓朗(受賞)
第20回(令和5(2023)年度)日本学士院学術奨励賞を受賞
https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2024/011201.html
Wakako Maekawa(論文)
“United Nations peacekeeping operations and multilateral foreign aid: Credibility of good governance” World Development Issue: Online first (査読あり) DOI: https://doi.org/10.1016/j.worlddev.2024.106531
Abstract:Does hosting UN Peacekeeping Operations (UN PKOs) increase multilateral foreign aid inflows into civil war affected countries? Under what conditions do UN PKOs make multilateral foreign aid effective, enhancing governance quality? Multilateral foreign aid agencies increasingly focus on good governance as an allocation criterion. However, multilateral aid assistance faces dilemmas when allocating aid since it undermines the credibility of government commitments to good governance. This study argues that UN PKOs mitigate such uncertainty by initiating democratization, capacity-building, and political participation while mitigating political violence, thereby increasing the multilateral aid inflows. In missions involving these initiations, multilateral aid effectively enhances governance quality. These arguments are tested using a sample of countries that have experienced civil wars between 1991 and 2009. The findings suggest that UN PKOs increase the multilateral aid inflows. Moreover, increasing multilateral aid is more effective in improving the governance quality when missions have capacity-building or electoral tasks.
髙田陽奈子(論文)
「人権条約における、条約当事国の統治理念・体制の多様性という難題--人権条約機関による「手続的アプローチ」は適切な解決策か」憲法研究13号(2023年)https://www.shinzansha.co.jp/book/b10045232.html
概要:憲法と人権条約との間の決定的な差異の1つとして、憲法が1つの国のみを対象とするのに対し、人権条約は多数の国を対象とするという点がある。国内裁判所やその他国家機関が、特定の1つの国の現実とそこで共有された統治理念を前提として憲法を解釈適用するのに対し、人権条約機関は、人権条約の運用において、国内統治理念・体制において極めて多様な条約当事国を同時に規律しなければならない。そのような中で人権条約機関は、いかにして、条約当事国の多様な現実やニーズに応えることができるだろうか。そしてその際、人権条約機関は、伝統的国際法の重要原則である、政治体制間の対等性とはどのように折り合いを付けるのだろうか。本稿では、このような国際人権法全体を通底する根本的な問いに答えるための第1歩として、まず、人権条約機関が民主的国家を非民主的国家よりも規律の厳格さにおいて優遇すべきかという議論を整理し、次に、近年人権条約機関の実践において司法審査基準の1つとして発展している「手続的アプローチ」が事実上そのような機能を果たしていることを示したうえで、最後に、そのことが、伝統的な国際法における政治体制間の対等性原則との関係でどのように評価されるべきなのかについて論じている。
髙田陽奈子(判例評釈)
「ヨーロッパ人権条約と国際スポーツ法の交錯――性分化疾患をもつ女性アスリートの権利とスポーツにおける公平な競争(Semenya v. Switzerland, 11 July 2023 [小法廷])」人権判例報7号(2023年)(査読あり) https://www.shinzansha.co.jp/book/b10045085.html#
概要:キャスター・セメンヤ氏は、南アフリカ国籍の女性陸上競技アスリートであり、2009年以来、複数の世界陸上競技選手権やオリンピックの女性800メートル種目において金メダルを獲得するなど輝かしい成績を収めてきた。しかし、セメンヤ氏には、生まれつき、性染色体や性器、性線などの発達が非典型的な状態(「性分化疾患」 )のため、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が平均的な女性よりも相当程度高いという生物学的特徴がある。このため、セメンヤ氏の活躍は、スポーツにおける公平な競争と性のあり方に関する国際的な議論を巻き起こした。そうした議論を背景に、世界陸連は、女性競技における公平な競争の確保を目的として、性分化疾患をもつ女性アスリートが女性区分で国際競技大会に出場するためには、ホルモン治療によりテストステロンの値を一定値以下に抑えなければならないとの規則を制定した。この判例評釈が対象とするセメンヤ事件判決は、スイスを形式的な被申立国としつつ、実質的には、非国家主体たる世界陸連が制定したそうした規則の、ヨーロッパ人権条約との整合性を審査したものである。この判例評釈では、セメンヤ事件判決を要約したうえで、この判決がもたらす示唆について、とくに、国際スポーツ法におけるヨーロッパ人権裁判所の位置づけ、スポーツ法に固有の諸価値と人権との調和のあり方、そして国際スポーツ法を私法的秩序として性格づけることの限界、という点から論じている。
髙田陽奈子(裁判意見書)
「意見書:自由権規約の解釈方法について―ー条約法条約31条および32条上の解釈規則の具体的な適用方法と、自由権規約委員会の一般的意見の法的意義を中心に」東京地方裁判所民事第26部、令和4年(ワ)第528号自由権規約に基づく損害賠償請求事件(2023年12月5日提出)
概要:本件訴訟では、難民申請者である原告らに対して、被告である日本国が行った長期的かつ反復的な入管収容が、自由権規約9条1項の「何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない」という権利の侵害を構成するか否かが中心的な論点になっている。このような背景のもと、この意見書は、原告らの依頼に基づき、①そもそも国際法上、条約はどのような解釈方法により解釈されるのか、②自由権規約の解釈において、自由権規約委員会の一般的意見35号はいかなる法的意義を有するのか、そして、③自由権規約の解釈における、国内裁判所の役割・位置づけはいかなるものであるのか、の3点について、国際法・国際人権法の専門家という立場から意見を詳述したものである。
※本件訴訟の詳細や、髙田の意見書を含む訴訟関連資料はすべて、CALL4というウェブサイトの「『日本の入管収容は国際人権法違反』訴訟」のページ(https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000096)から閲覧することができます。