教員

教員紹介:遠藤勇哉 助教

OSIPP政治学の教員である遠藤勇哉先生にインタビューを行いました。遠藤先生は政治行動論が専門であり、東北大学で情報科学の博士号を取得しました。東北大学で助教を勤めた後、2023年9月16日付でOSIPPに助教として着任しました。

 

 

 

どんな研究をされていますか

主に「選挙で有権者が何を手がかりに政治行動を行っているのか?」という問いに基づいた研究をしています。特に、ジェンダーステレオタイプ(女性とはこういうもの、男性とはこういうものという決めつけた見方)、候補者の外見といった観点からアプローチしています。

この研究においては、ジェンダーステレオタイプと有権者の政治行動にはどのような関係があるのかを検証しています。私たちの研究で、日本の有権者は政治家の性別毎に得意な政策や当てはまる性格があると認識していることが明らかになっています。では、有権者はいつ、どのように意思決定の手がかりとしてジェンダーステレオタイプを用いているのでしょうか。現在の私の関心はここにあります。たとえば、「女性らしくない」と有権者に認識された女性政治家はどのように評価されるでしょうか。これらのことを主にサーベイ実験を用いて明らかにしています。

ジェンダーステレオタイプが有権者の政治行動へ与える影響は、多くの面で未だ明らかになっておらず、その解明を通じて、政治における男女の格差縮小へ繋がる手がかりや方策を発見し、社会全体の発展に寄与できることを目指しています。

また、東北にいたことから復興と政治の研究にも取り組んでいます。

 

もともとジェンダーステレオタイプや候補者の外見といった問題に関心があったのですか

インタビューの様子(左:筆者・右:遠藤先生)

最初からジェンダーステレオタイプに関心があった訳ではありません。一時期は、政治とは無関係なイベントが有権者の政治行動に与える影響について関心を持っていました。例として修士課程で読んだアメフトの試合の研究を挙げますが、2015年の大学アメフトのチャンピオンシップであるオハイオ州立大学とオレゴン大学の試合にて、勝利した大学の学生(この試合ではオハイオ州立大学)の間で、そのときの大統領に対する評価が高まるといった現象が見られます。一方で、試合に負けた大学(この試合ではオレゴン大学)の学生の大統領への支持率は大幅に低下します。ただ、この効果は一週間も持続しない。この研究は、政治と無関係なアメリカンフットボールの試合の結果が人々の気分に影響を与え、その気分が政治行動に影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。それで有権者は何の情報を手がかりに政治行動をしているんだろうと、興味をもつようになりました。

学会でのポスター発表の様子(2023年12月)

また、ジェンダーステレオタイプに関する論文を読んで、面白いと思ったことも関係しています。Ono and Yamada(2020)は、女性候補者は男性候補者に比べて不利な立場に置かれていて、それだけでなく、彼女たちが有権者のジェンダーステレオタイプから外れた行動を取るとpunishment(処罰)を受けるとしています。具体的には、支持される確率の低下です。そうなると、なかなか女性の候補者は身動きが取りづらいですよね。そうした事例を明らかにしていて、面白いと感じました。

それから、候補者の外見研究には私自身の投票の経験が関係しています。私が高校生の時は、まだ18歳の選挙権がなかったので、初めて投票に行ったのは学部3年生の時です。実際に投票に行ってみると、何を手がかりにして投票すれば良いのか分かりませんでした。そこで、候補者の顔を参考になんとなく政治家として良さそうな人に投票したわけです。学校では、さながら義務のように投票に行く重要性を教わりますが、多くの有権者は誰に投票するか迷うのではないでしょうか。いったい有権者は何の情報を手がかりにして投票しているのだろうという興味が湧き、より深く知りたいと思うようになりました。

 

研究者を目指したのはいつ頃ですか

博士前期課程を終えたら民間企業に就職しようと思っていました。実際に内々定もいただいていたのですが、お世話になっていた先生から東北大学の博士後期課程に来ないかという話をいただきました。「政治学と心理学を掛け合わせた研究って面白いな」と思っていた時期だったので、人生は一回きりですから、思い切って進学することにしました。

 

先生にとって、研究の魅力は何ですか

ジェンダーステレオタイプというのは、人々の思い込みに過ぎません。例えば、男性政治家は女性政治家に比べて防衛政策に対する知識が多く、女性政治家は男性政治家に比べて育児政策に対する理解が高いなどと言われることがあります。このように、多くの有権者は、政治家、とりわけ女性の政治家をジェンダーステレオタイプというレンズを通して見がちです。有権者がこのような行動を取る理由を理解することは民主主義の機能の有効性を理解する上で重要で、興味深いと思っています。

 

今学期はどのような授業を担当されていますか

今学期は「現代の法と政治を考える」という授業を担当しています。週二回の開講ですが、それぞれ別の内容です。火曜日は選挙や政党、国会について、学術論文の知見をもとに理解する授業です。現代日本政治の授業ですね。水曜日の授業では、私の専門に近いテーマである政治心理学を扱っています。有権者がどのような手がかりで投票するのかやメディアが政治に与える影響、政治において感情が果たす役割とかね。

 

最後に、OSIPP生へのメッセージをお願いします

博士前期課程までは学問に興味関心があれば「ノリ」で進学して大丈夫だと思います。実際のところ、博士前期課程で学ぶ“ものの考え方”や“論理的な文章作成”は現実社会で活かせられると思います。実際に、私が博士前期課程で就職活動をした際は、その部分を評価して頂いたと思います。一方で、博士後期課程まで進みたい方は、しっかり計画した方が良いと思います。例えば、博士号取得後にどこで働くのか。そこから逆算して何の研究をして、何年で博士号を取得することが望ましいのか、所属研究室の研究テーマと自身の関心が一致しているのかといったところです。

また、向こうから来るのを待つのではなくて、自分から動くことがとても大事です。良い研究アイデアがあるのであれば「先生、これ一緒にやりませんか?」と声をかけることです。あるいは、オフィスアワーを積極的に活用するとか。これは、今後も研究を続ける場合だけでなく、会社で働く場合にも当てはまると思いますので、積極的に自分から行動するということは大事にしてください。

(インタビュー時期2023年秋・OSIPP博士前期課程 久保知生)

〈推薦図書〉

■ 候補者の外見と有権者の行動に関心がある方向け
『第一印象の科学―なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか』(みすず書房)
アレクサンダー・トドロフ(著)、作田 由来衣子(監修)、中里 京子(翻訳)

■ ジェンダーと政治に関心がある方向け
『女性のいない民主主義』(岩波新書)前田 健太郎(著)

■ 博士前期課程に進学したい方向け
『DEMOCRACY FOR REALISTS』(Princeton University Press)
Christopher H. Achen and Larry M. Bartels(著)
未邦訳。先生曰く、「英語だけど、そんなに難しくないよ!」とのことです。

 

〈参考文献〉

■ Busby, E. C., Druckman, J. N., & Fredendall, A. 2017. The Political Relevance of Irrelevant Events. The Journal of Politics, 79(1), 346-350.

■ Ono, Y., & Yamada, M. 2020. Do voters prefer gender stereotypic candidates? Evidence from a conjoint survey experiment in Japan. Political Science Research and Methods8(3), 477-492.

■ 加藤秀一.『はじめてのジェンダー論』.有斐閣ストゥディア, 2017

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助教 遠藤勇哉

研究テーマ:ジェンダーと政治、政治行動、政治心理

専門分野:政治行動論

学位:博士(情報科学)