【My Favorite】髙田陽奈子准教授「水族館」
2024.7.23
【My Favorite】
このシリーズでは、OSIPP教員の“推し”をご紹介します。
髙田陽奈子准教授「水族館」
私の「推し」は水族館です。
石川県で生まれた私は、子どもの頃から弟と能登の海に潜り、タイやアジを追いかけ、砂地に目だけ出して潜るカレイと目があって吹き出したり、タコを見つけて大はしゃぎしたり、透き通ったイカの美しさに感動したりして育ちました。少々寒い日でも、ダイビングスーツを着て潜る海の中は別世界で、もうすぐ日が暮れるという時間のまで海の中にいて、ダイビングスーツを脱ぐ頃に、太陽があまりに速沈んでゆくときの空が刻一刻と姿を変える様子は、何枚もの絵画を見ているようでした。
そんな私が水族館に入ると、そこはまるでシーンとした深い海の底のようで、一つ一つの水槽の前に立つと、ゆったりとした時間が流れ始めますパクリと口を開け、ゆったりと泳ぐ美ら海水族館の大きな大きなジンベエザメ。地面からひょうきんに伸び上がってくるニフレルのチンアナゴ。そして、様々な美しい色の魚たちが泳ぐ、海遊館のたくさんの水槽たち。それらの前で私は何と言っていいか言い表せない気持ちになるのです。ジンベエザメを見たとき、ダイビングスーツを着て、ジンベエザメと同じようにゆったり海に潜っている気持ちになっているのか、チンアナゴを見て、地面から飛び出した、カレイの目で吹き出していた自分と重ねているのか、美しい水槽がずっと続いている様子が、海で見た何枚もの、絵画のような風景を思い出させているのか。とにかくそれは、たくさんの色が混ざりあったような、自分にとって大事な大事な気持ちです。
毎朝、忙しく支度を整え、自転車で3歳の息子を保育園に送り届けて研究室に入ります。そこで、温かいほうじ茶を入れるとき、そのティーカップの表面には、もちろん、私の「推し」水族館の魚たち、そしてジンベエザメが泳いでいます。ほうじ茶は、私を少しだけ水族館の水槽の前に立ったときの気持ちにさせてくれます。それから私はカップを置き、何か深く満たされたような気持ちになって、背筋を伸ばし、書きかけの論文に向かうのです。
(髙田陽奈子)
(この文章は2023年6月にOSIPP公式Facebookに掲載したものです。)