ナダ・アル=ナシフ氏(国連人権副高等弁務官) 基調講演
2025.5.16

ナダ・アル=ナシフ氏(国連人権副高等弁務官) 基調講演
2025年5月9日に、OSIPP ESGインテグレーション研究教育センター、国連政策研究委員会の共催により、国連人権副高等弁務官のナダ・アル=ナシフ氏(以下アル=ナシフ氏)による「激動する世界における人権の促進」と題した講演が行われた。本講演は豊中キャンパスの法経講義棟の法2番教室にて、英語で実施された。聴講者は主に学部生、大学院生、教員で、会場が満員近くになるほどの人が集まった。
まず大槻恒裕研究科長による開会挨拶および蓮生郁代教授によるアル=ナシフ氏の紹介の後、講演に移った。
講演でアル=ナシフ氏は、今日世界で発生している対立について述べつつ、国連がどのように世界を見ているかについて語った。人道支援者が犠牲になっているガザやウクライナの問題だけでなく、私たちの耳にはなかなか届かないスーダンの問題や、コンゴ、ミャンマーの現状についても述べた。また、現在対立を乗り越えて次の段階に進んでいるバングラデシュ、スリランカについては期待を寄せている旨を示した。権力集中の恐れや検閲の問題についても触れ、アメリカの大学での政府の力の増大については懸念を示した。
Humanitarian economyという言葉もあげ、利益を求めない人道支援についての話もあった。2025年の現在の世界情勢は厳しいものであり、支援をしたくてもできないような状況がある一方で、一緒に協力できる国とともに支援に努めたい、とのことだった。
最後に、答えのない様々な問題へのアプローチ方法について、それぞれの知恵を使いながらともに考えていきたい、という言葉で講演を終えた。
質疑応答の時間では、事前に寄せられていた100件以上の質問内容から抜粋された質問が読まれた。質問の内容は国際的な企業が守るべきルールの所在についてや、人権意識について、また国際連合ができることの限界や中立性の維持の方法についてと様々なものがあった。アル=ナシフ氏はそれぞれの質問に、ときには質問の意図や意味を尋ねながら丁寧に答えていた。ある質問者にはアル=ナシフ氏があなたはどう思うかと聞き返す場面もあり、「ともに考える」という姿勢が感じられた。
本講演は、長年、国際連合で幅広い業務に携わっているアル=ナシフ氏の経験や知識に基づく世界の見方について知ることができる場だった。 質疑応答に長い時間が与えられており、アル=ナシフ氏と直接話す機会が設けられていたため、聴講者にとってインタラクティブな講演だったように思う。また、本講演は常に不安定な世界情勢の中で、平和を求める国際連合の役割は大きいことを改めて認識するものだった。
講演の中では日本での人権の状況について語られる場面もあった。これから卒業後に就職や進学をしていく学生たちに人権の意識について新たな観点を与える機会になったのではないだろうか。
(OSIPP博士前期課程 奥野愛理)