教員紹介:久保田雅則 助教
2025.5.23

教員紹介:久保田雅則 助教
2025年4月1日付で国際公共政策研究科に助教として着任した久保田雅則先生にインタビューを行いました。
・これまでのご経歴を教えていただけますか?
私は、修士、博士ともにOSIPPで取得し、2019年3月の博士後期課程修了後も特任教員としてOSIPPで研究教育活動に従事してまいりました。また、その間、関西学院大学、立命館大学、大阪経済法科大学で非常勤講師に従事してまいりました。
・研究者を目指したきっかけのようなものはありますか?
核兵器の問題に取り組みたいという思いから、学問の力でこの課題を解決したいと考え、研究者を志すようになりました。長崎出身であることに加え、核廃絶市民集会に参加したことを通じて、核の問題が長崎だけにとどまらず、世界全体に関わる深刻な課題であることを認識し、より深い関心を抱くようになりました。
・これまでの研究について紹介していただけますか?
博士前期課程では非核兵器地帯について研究していました。非核兵器地帯とは、特定の地域において、域内国による核兵器の生産、取得、保有及び管理を禁止することによって作り出される「核兵器のない地帯」[1]で、軍縮の取り組みの一つです。
博士後期課程では核不拡散条約について研究しました。世界全体の問題として国際規範と国際制度の観点から研究を進め、「国際規範としての核不拡散という規範がどのように条約に変化するのか」を理論構築し、実証していました。核兵器、大量破壊兵器問題に関する研究は今も継続しています。それに加えて、指導教員だった先生と研究室の先輩とともに、政治変動の共同研究を進めています。
・現在の研究に取り組むことになったきっかけを教えてください
共同研究でこれまで自分にはなかった研究手法を学んだことがきっかけです。
それまで私は国際政治という枠組みで研究をしていましたが、博士後期課程修了後に、比較政治学の手法を学びました。私が扱うテーマには事例数が少なく、その定性的な研究に限界を感じていました。しかし、国際、国家レベルの分析だけでなく、国家の指導者の個人レベルでの分析方法があることを、共同研究を通じて知ることで、比較政治と国際政治を絡めた量的研究に興味を惹かれ、現在の研究に取り組むようになりました。

写真左:筆者・右:久保田先生
・この研究の魅力や面白いところはどんなところですか(最新の動向など)
核兵器や大量破壊兵器の拡散問題について個人レベル(政治家や指導者)と国際レベル(条約などの各種取り決め)をつなげるところが面白いと思います。ある問いに対して当時の指導者のバックグラウンドや思想が結びついているのかどうか、というところにアプローチすることができます。
例えば、ある国で過去の政治指導者がその座を退いた後の末路が悲惨なものだった場合、そのあとの指導者は自身の末路が同様のものにならないように政治運営を行うかもしれません。このように指導者の個人的な理由によって、戦争をはじめとした国や世界に対して大きな影響を及ぼす出来事が決定されているという指摘があります。歴史研究の観点からは、政治指導者の個人的な経歴が国家間関係に影響を与えることを示す研究はよく行われていますが、一般化して計量的に研究されているものは、軍縮・不拡散研究ではあまりありません。このように比較政治と国際政治を架橋するような研究は新しく、面白いと考えています。
・推薦する図書があれば教えて下さい
①日本軍縮学会編『軍縮問題入門[第5版]』東信堂、2025年。
私の講義の教科書としている本で、軍縮や核問題に関心を持ち始めた方への入門書になります。
②Sagan, Scott Douglas, and Kenneth Neal Waltz. The spread of nuclear weapons: an enduring debate: with new chapters on Iran, Iraq, and North Korea, and on the prospects for global nuclear disarmament. WW Norton, 2013 .
核問題について2人の研究者が意見を議論している本です。核やその保有について、反対する視点からだけではなく、様々な観点から考えられます。物事について考えるとき、自分が持つ意見と同じような意見だけではなく、対立する意見にも耳を傾けることが重要です。その議論を経ることで、自分の意見の正当性を改めて考えることができます。
(OSIPP博士前期課程 奥野愛理)
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助教 久保田 雅則
研究テーマ:軍縮・不拡散
専門分野:国際関係論、比較政治
学位:博士(国際公共政策)
〈代表的な業績〉
「核不拡散規範の制度化―制度形成と変容の要因としての逸脱行為に着目して」『国際政治』第205号、2022年。
『外交・安全保障政策から読む欧州統合』大阪大学出版会、2023年(共著)。
Life after exile: Introducing a new dataset on post-exile fate. Conflict Management and Peace Science, 2024. (共著)
[1]外務省「非核兵器地帯とは」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/n2zone/gaiyo.html(2024年5月21日閲覧)