2025.12.10

OSIPPオンライン大同窓会
2025年11月30日、OSIPPオンライン大同窓会2025が開催された。この会は赤井伸郎教授をはじめとする同窓会実行委員会の尽力により企画され、OSIPP修了生のネットワークの強化・および現役生や教職員との交流を目的としている。当日は修了生に加えて、現役生や現職・退職教職員が参加し、画面越しながらもにぎやかな雰囲気となった。

同窓会の活動報告をする赤井伸郎実行委員長
開会にあたっては、まず赤井教授から、OSIPP30周年記念式典をはじめとするOSIPP同窓会「動心会」の直近1年の活動報告が行われた。続いて、動心会会長の辻本賢氏の挨拶が、動心会事務局長の小林義彦氏により代読された。その後、大槻恒裕研究科長からOSIPPの現状について、教育・研究活動や学生の状況などを含めた報告があり、博士後期課程の制度改革や学際プログラム、高大連携など近年OSIPPが力を入れている取り組みについての紹介があった。
卒業生による特別報告として、田中弥生氏(前会計検査院長)による講演が行われた。実務と理論を往還しながらキャリアを重ねてきた田中氏ならではの視点から、会計検査院の役割と財政民主主義の重要性について語られた。
会計検査院は、「財政民主主義のインフラ」として機能する憲法第90条に基づき設置された独立性の高い憲法機関で、日本で唯一の財政監督機関である。検査の対象は日本銀行のバランスシートや国債発行の動向、東京オリンピック・パラリンピック関連事業、農業政策や年金制度、租税特別措置の効果など、多岐に亘る。田中氏は2024年1月に内閣総理大臣から任命され、院長としてその職務にあたった。

報告をする田中弥生氏
在任中に行ったこととして、田中氏は戦後初めて補正予算の執行状況を体系的に把握したことに触れた。そしてその結果、予算が翌年に全額繰り越しているものがあり、その半分強が執行されていないことが明らかになったと述べた。緊急に必要だという理由で組まれたはずの補正予算に執行されていないものが多いことは、どういう根拠で、どういう積算をして補正予算の要求をしているのかについて確認し、見直す必要があることを示唆する。田中氏は検査を通じて日本の財政運営に新たな視座を与えたことも強調した。
講演の後半では、田中氏のキャリアの背景にあるピーター・ドラッカーとの出会いについても紹介された。田中氏にはドラッカーから授かった2つの大きなテーマがあるという。1つは「非営利組織のマネジメントと評価」、もう1つは「ナチスの全体主義と民主主義」であり、この2つがその後の転職や生き方を大きく方向づけてきたそうだ。
このうちの「ナチスの全体主義と民主主義」というテーマを通じて、田中氏は個人の関心がどのように公共の問題とつながっていくのかを考え続けてきたことが語られた。その延長線上に、財政民主主義を支えるインフラとしての会計検査院での仕事への就任があり、田中氏は「これまでやってきたことを一度すべて手放して、その役割に飛び込んだ」と振り返った。
田中氏のキャリアには、テーマを追い続けるために学びと実践を繰り返す姿勢が一貫している。非営利組織のマネジメントや政策評価を学び、国際協力銀行や会計検査院といった現場でその知見を活かしてきた。講演では、こうした学びと実践の往復運動を通じて自らのテーマを深めてきた歩みが語られた。その経験を踏まえ、OSIPPには学生や卒業生にとっていつでも戻ってきて学べる環境を提供してほしいこと、またOSIPPの現役生・修了生に向けて、「自らの関心を追求し続けること」「好奇心を大切にし、多様な人と出会うこと」「本務とは別に自分のテーマを育てる“2枚目の名刺”を持つこと」の重要性が力強く語られた。「まず望み、チャレンジすれば、必ず得るものがある」というメッセージは、参加者の心に深く響いたようだった。

ブレイクアウトルームの様子
同窓会の後半では、少人数に分かれてのグループ別交流会が行われた。各グループでは、ファシリテーターの進行のもと、参加者が近況を報告し合いながら、OSIPPネットワークの活用方法や今後の同窓会のあり方について活発な意見交換が行われた。参加者からは「社会人学生が履修しやすいような柔軟な学修環境を整えてほしい」といった声などが寄せられた。こうした意見に対し、現役教員からはOSIPP内で進められている議論などについて説明があり、現場の声と大学側の取り組みが交差する場ともなった。
今回で3回目となるオンライン同窓会は、地理的制約を超えて気軽に参加できるというオンラインの特性を活かし、国内外で活躍する修了生や教職員、現役生が世代を超えて集う貴重な機会となった。久しぶりに顔を合わせた教員と修了生が旧交を温める場面も多く見られ、再会を懐かしむ和やかな雰囲気に包まれていた。参加者の声や意見を通じて、OSIPP修了生の多様なニーズを把握する機会にもなった本会は、今後の同窓会活動のさらなる発展に向けた重要な一歩となったといえるだろう。
OSIPP同窓会「動心会」公式ページ:
https://www.osipp.osaka-u.ac.jp/ja/osipp-links/doshinka/
(OSIPP博士後期課程 辻本篤輝)
