【院生紹介】田渕有美さん(OSIPP博士後期課程)
2021.2.12
【院生紹介】田渕有美さん(OSIPP博士後期課程)
OSIPP博士後期課程3年で宇宙政策について研究されている田渕有美さんにインタビューを行いました。
(写真:アイゼンハワーミュージアム 文中のアイゼンハワー大統領図書館に隣接)
現在取り組んでおられる研究内容についてお聞かせください:
博士論文で取り組んでいるテーマは、アイゼンハワー政権期における宇宙政策です。アメリカの宇宙政策というと、1960年代後半のアポロ計画の印象が強いですが、実は現在まで続くNASAを中心とするアメリカの宇宙開発体制が築かれたのはそれよりも少し前のアイゼンハワー政権期です。最近ではトランプ前政権が宇宙軍を設立したことで、宇宙空間の軍事利用をめぐって中ロとアメリカの間で緊張が高まっています。しかし、宇宙空間における軍事利用をめぐっては、宇宙条約第4条が宇宙空間への核兵器および大量破壊兵器の配備を禁止しているにとどまっており、国際的規制の難しさを表しています。アイゼンハワー政権以来の「平和のための宇宙」政策、すなわち「宇宙兵器の存在しない、全人類のために開かれた」宇宙は、宇宙軍の創設によってその存続が危ぶまれていると言ってよいでしょう。
この「平和のための宇宙」政策がなぜ、どのようにして発案・維持されていったのかを歴史的に解明することが博士論文の問題設定です。アイゼンハワーの「平和のための宇宙」政策は冷戦下において順調に進展していったわけではないのですが、その後のケネディ・ジョンソン政権下にも引き継がれていき、67年の宇宙条約へと結実していきます。宇宙条約は現在の宇宙空間における軍備管理・軍縮条約のマグナ・カルタとなっています。「平和のための宇宙」政策がこのような長寿概念となった理由を探るべく、私は「科学者の役割」に着目しました。ここで言う科学者は、主には政権内科学者を指します。これまでの研究では、対ソ政策のためのプロパガンダとして「平和のための宇宙」政策が捉えられてきたのですが、科学者の役割に着目することによって、軍と科学者の対立といった国内要因も「平和のための宇宙」政策を規定してきたということがわかりました。
最近Nanzan Review of American Studiesに掲載された論文では、「平和のための宇宙」政策のひとつであるアメリカ初の人工衛星計画「ヴァンガード計画」について、科学者の役割を中心に分析しています。従来の研究では、ヴァンガード計画は宇宙開発競争におけるソ連への遅れ(スプートニク・ショック)を招いた「失敗」であると評価されてきたのですが、「平和のための宇宙」政策の維持という点から考えると、実はヴァンガード計画が大きく貢献しており、その際に科学者が重要な役割を果たしたということを示しました。
この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください:
宇宙政策をテーマにした理由は、もともと宇宙や天体が好きだったからです。国際政治という点から宇宙空間を捉えたときに、何が軍事利用で何が平和利用かという定義の問題もあり、宇宙の軍事利用の規制が大変難しいということを知りました。宇宙空間の軍備管理について色々と調べていくなかで、スプートニク打ち上げ後にアイゼンハワーがソ連首相に向けて、これからは宇宙空間をもっぱら「平和目的」で利用していこうではないか、という手紙を送っていたことが分かりました。時期的に見て、現代のアメリカの宇宙政策と宇宙空間の軍備管理・軍縮条約の起源が何となくアイゼンハワー政権期にあるというふうには考えていたので、当時の宇宙政策に対するアイゼンハワーの本音と建て前を知りたいと考えるようになりました。
アビリーン街並み
この研究の魅力や面白いところ、最新の研究動向を教えてください:
近年の宇宙軍の創設や宇宙空間の「民営化」など、宇宙政策をめぐる環境変化に伴い、解明するべき問題設定も変化するので、宇宙政策研究には開拓性や新奇性があると言えます。政治的な注目度も高く、2015年に中谷防衛大臣(当時)のもとでインターンを行った際には、政治家や防衛省の方の宇宙政策への関心の高さが印象的でした。海外に史料調査へ出掛けることもこの研究の魅力でしょうか。アメリカのカンザス州にあるアイゼンハワー大統領図書館で調査を行った際には、アイゼンハワー財団のボランティアの方々に食事から街の案内から、大変お世話になりました。史料収集は体力と時間との勝負ですが、ボランティアの方々と過ごした時間は大変楽しい思い出となりました。
アイゼンハワー大統領図書館にて資料収集
大学院でこの分野を研究していくためには、どういった勉強をしておく必要があると思われますか:
大学院では英語を使って大量の本や史料を読んだり、英語論文を執筆したり、海外で学会発表を行ったりする必要があるので、学部生のうちに英語能力を高めておきましょう。
また、歴史研究に関しては通史的なことを勉強するのも良いですが、まずは自分にとって興味のある事件や人物を取り上げた本を読んでみることをお勧めします。
最後に、進路や今後の研究の展開について教えてください:
大学院卒業後は関西の複数の大学で教育に携わりつつ、研究を進める予定です。研究は、長期的にはアイゼンハワー政権の宇宙政策からケネディ・ジョンソン大統領時代まで射程を広げていく予定ですが、まずは博士論文の内容をまとめなおしてジャーナルの投稿を目指します。
ワシントンにある米国議会図書館内部にて
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① 研究テーマ
アイゼンハワー政権期における「平和のための宇宙」政策
② 専門分野
アイゼンハワー、宇宙政策、国際関係史
③ 学位
学士(法学)(大阪大学)
修士(国際公共政策)(大阪大学)
④ 代表的な業績
Yumi Tabuchi, “Project Vanguard and Ike’s “Space for Peace” Policy,” Nanzan Review of American Studies 42 (2020): 23-42.
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(OSIPP博士前期課程 岡春陽)