【卒業生近況】吉川香菜子さん/国連人口基金 ウガンダ事務所 勤務
2021.9.24
【卒業生近況】吉川香菜子さん/国連人口基金(UNFPA)ウガンダ事務所勤務・OSIPP招へい研究員
2017年度OSIPP博士後期課程の修了生で、現在国連人口基金(UNFPA)で勤務されている吉川香菜子さんにお話を伺いました。吉川さんは、現在OSIPPの招へい研究員でもあります。 (写真:UNFPAでの会議にて・2019年ミャンマー事務所勤務時)
1. 国際機関に興味を持つようになったきっかけをお聞かせください。
OSIPP博士前期課程で計量経済学を勉強した後、留学したイギリスの大学院で計量経済学を用いた開発援助政策のインパクト評価について学んでいくうちに、人道・開発プログラムがどの程度効果があったのか、どのように改善していくべきかを分析するような仕事に就きたいと思ったことがきっかけです。留学中には、国際NGOのインターンシップで、ウガンダ北部で行われていたWomen‘s empowermentに関するプログラムのインパクト評価に関わりました。データ収集の設計や実際の収集・分析を行ったり、結果をレポートにまとめたりといった、座学では学べないインパクト評価の一連の流れを経験しました。それまで大学での分析では二次データを使用していたため、実際にデータを収集する立場として、一からデータ収集・分析・活用に携わることができたことを面白く感じました。このような経験から、実務者としてのデータ収集や分析業務を続けたいと思い、国際機関ならそれができると思いました。博士論文を提出する頃に日本外務省のJunior Professional Officer(JPO)派遣制度に応募し、採用されました。
2.なぜ国連人口基金(UNFPA)に勤務しようと思われましたか?
UNFPAは「命」をつなぐ国際機関です。すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、すべての若者の可能性が満たされる世界を目指して活動しています。特に女性と少女、若者の性と生殖に関する健康権利(Sexual reproductive health and rights: SRHR)、ジェンダーに基づく暴力(Gender-based violence: GBV)の防止と対応、家族計画の推進、人口統計や人口政策に関する支援などを主に行っています。途上国のサステナブルな経済成長を目指して、重要な指標をモニタリングして政策に活かしてもらうため、データ収集とその活用もUNFPAの大切な活動の一つです。私は、入職前から女性や子どもの健康やジェンダー平等に関心を持っており、このテーマでデータを使用した分析により修士・博士論文を執筆していたので、その経験をもとにUNFPAの活動に貢献できるのではないかと思ったことがこの機関での勤務を希望したきっかけです。
3. 仕事内容とその魅力や面白かったところ、大変だったところを教えてください。
ウガンダ政府は、今後様々なデータ収集活動を予定しています。その活動においてUNFPAは、10年に一回行われる国勢調査や、健康・栄養・教育等の重要なデータを収集する標本調査であるDemographic and Health Surveyに関する技術支援を行うため、現在、調査票や調査マニュアルなどへの技術的なインプット、調査実施のための資金調達等を行っています。私は、OSIPPでの修士・博士論文執筆時に様々な国の国勢調査やDemographic and Health Surveyのデータを使用していました。今回ウガンダで、実際のデータ収集業務の一端に国連職員としての立場で関わることができることに、喜びを感じています。 また、UNFPAは難民の女性など特に脆弱な人たちを対象とした人道支援を行っています。それに対して日本政府を始め多くのドナー国から資金提供がされています。ウガンダでは昨年のCOVID-19の第一波によるロックダウンの影響で、妊婦健診が受けられなかったり、病院にたどり着けずやむなく医療従事者の援助なく分娩となったり、暴力的なパートナーとの時間が増えてGBVが増えたり、避妊具にアクセスできず望まない妊娠をする事例が増えました。そんな状況下にはありますが、日本政府の支援により、UNFPAはウガンダ西部・北部の難民とホストコミュニティの女性を対象としたプロジェクトを行っています。調達した救急車や医療関連機器を現場に届け、助産師等の医療従事者への支援を通して安全な出産やGBVへの対応・予防を行うことで、自分の仕事がこのパンデミックにおいて人命救助の役に立っているかもしれないということが嬉しいです。一方、適切なタイミングで適切な医療にアクセスできず、命を落とす妊産婦が多くいます。また、GBVにより望まない妊娠や性感染症に苦しむ女性・少女も多くいます。厳しい立場に立たされる方々が多い中で課題が山積しており、無力感を感じることもあります。
4. 国連人口基金(または国際機関)に勤務を希望する場合、学生時代にどんな準備が必要でしょうか。
国連本部・安全保障理事会会議場にて
国際機関で働くために準備するよりも、ご自身のやりたいことを見つけて、それができる職場を探したほうがいいかもしれません。なぜなら、国際機関で働くことそのものが目的となると、キャリアの途中で苦しくなるかもしれないからです。ほとんどの契約形態が、短い場合は数か月のコンサルティング契約や、長くてもほんの数年の契約で働くことになるため、常に次のポストを探すことになります。
また、国際機関に就職するには、「自分はこの分野なら自信がある」というものがあるとよいでしょう。選考ではTerms of Reference(ToR: 勤務内容について記されたもの)に記載されていることを遂行できる専門性が求められます。一方で、実際に勤務が始まるとToRにない仕事もすることになります。自分の専門ではない業務でも幅広く受け入れて柔軟に学び、チームに貢献していくという気持ちがあると、色々な経験ができると思います。学生時代のうちに、チャンスがあれば、国際機関でのインターンシップを経験してみるのもいいかもしれません。
5. OSIPPではどんな学生生活でしたか。
私は社会人学生としてOSIPPの博士前期課程に入学しました。学部卒業後は民間企業に就職したのですが、途中で職種が変わり、統計やデータ分析を学ぶ必要性を感じたため、再び勉強することにしました。統計やデータ分析を学ぶのは初めてでしたが、同級生に影響を受け、自分もがんばらねばと思わせてもらったように思います。平日の昼間は仕事でなかなか学校に行けず、仕事と勉強の両立に苦戦したことを思い出します。
仕事を退職して行った留学先や、帰国後復学したOSIPP博士後期課程では、100%学生として過ごすことができたので、毎日学校に行くという学生生活を堪能することができました。また、博士後期課程では日本学術振興会特別研究員として授業や論文執筆に専念することができました。
6.今後のキャリアについて
国際機関でのキャリアが長い先輩に伺うと、どの組織でどのポストについても、仕事が面白くなるのは3年目以降だったとのことでした。私の場合も、入職してから1~2年ほどは自分が関わっていること以外の情報が入らず、仕事の背景や周りの状況が分からないまま働く難しさを感じていました。しかし、従事年数が上がるとともに、関わることができる仕事の範囲が広がり、他のチームや上司が行っている仕事や、どのような背景でこの仕事が行われているのか等に加えて、ドナー国や途上国政府の考えも垣間見ることができるようになりました。そのおかげで組織に対する理解度や仕事の深度も変わり、面白みをより感じられるようになってきました。仕事や研究がうまくいかず、思わずため息がでることもありますが、学ぶ姿勢を忘れずに過ごしていきたいと思います。
2018年JPOの仲間たちとの研修にて(吉川さん:前から2列目左から4人目)
(OSIPP博士前期課程 千馬あさひ)