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【FGLCレポート】vol.1 松繁寿和先生(FGLC主催)事前インタビュー

Future Global Leaders Camp(FGLC)とは、高校生を対象に国際課題について考える3日間のオンラインイベントです。(コロナ禍前は豊中キャンパスでの2泊3日の合宿でした。)今年も8月に開催され、今回で7年目を迎えました。FGLCレポート第一弾は、主催者である松繁寿和教授へのインタビューです。

(インタビュー時期:2021年8月初旬)

 

1. FGLCを始められたきっかけをお聞かせください。

第一に、日本の高校生や大学生の目を世界に向けたいと思ったことです。教育の重要性を訴え、17歳でノーベル平和賞を受賞した人権活動家のマララ・ユスフザイさんや、気候変動のためのストライキを起こし、世界中に影響を与えた環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんらがされているような発信や、大学時代に結核の多剤耐性菌や感染症と貧困の問題解決に取り組み始めたポール・ファーマーさんの活動などが、どうして日本の若い人の中から起きてこないか疑問に感じていました。日本の学生は高い能力を持ちながら、世の中をよくするためにそれを生かそうとしないことが原因ではないかと思い、彼らが世界に目を向け、国際課題について考える機会を作りたいと考えました。
第二に、文部科学省によるSuper Global Highschoolの制度等が導入され、高校生に対してのグローバル・リーダーの育成を目指した教育が唱えられたことです。この制度の導入により、多くの高校から文系の課題研究を指導してほしいという要望が、国際公共政策研究科に寄せられるようになりました。そこで、各校に個別に対応するよりは、高校生をまとめて指導する方が効率的だと思いました。また、短時間の講演などよりは、最低数日間というまとまった指導が必要だとも感じていました。
第三に、法学部国際公共政策学科設立に関する広報活動が、当時あまりなかったことです。例えば、関東のある大学では新キャンパスができたときに、そこで行われる新しい教育を高校生にアピールしていました。それと同様に、私としては、将来入学してくる可能性のある世代へ国際公共政策学科をアピールしたいと思いました。

 

2. FGLCに関して、先生にとって面白いところはどんなところですか

若い人がより良い社会の実現を求める姿を見ることができるところです。多くの参加者がこのイベントを通し、お互いに刺激し合って社会問題に強く興味をもつようになります。
また、数日でも高校生が大きく成長するところも面白いです。高校での勉強とは異なり、明確な解のない問いについて考えるので、合宿を通じて考える力がつく様子が見られます。過去には参加者から「普段と全然違う頭を使う」という声もありました。

 

3. 先生にとって大変なところはどんなところでしょうか

まず、参加者の募集・連絡、会計等、多大な時間とエフォートが必要なことです。この活動に取り組んでくれている大学生の努力とサポートがなければ成り立ちません。さらに、高校生を受け入れる責任があるところも大変です。特に、コロナ禍前のように、実際に合宿を行っていた時は気を使っていました。また、関係者それぞれに得るものが大きいこのような取り組みですが、大阪大学の制度としてサステイナブルになるように設計することも大変です。

 

4. 大学生のみなさんが運営のサポートをしてくださっているのですね

はい。キャンプの内容の企画や参加者の募集、キャンプ当日の運営、グループワークのファシリテーター役など、運営の全てに関わっています。普段はレポート等を審査される側、イベントや講義に参加する側である彼らにとっても、提出された書類を審査する、イベントを作り上げるという経験は学びが多いようです。また、意欲的な高校生たちとの交流によって、大学生も刺激を受けています。

 

5. 今回の開催で7回目と長く続くイベントですが、開始当初に比べて何か変わったと感じることはありますか

開始当初に比べて、参加する高校生の発表が上手になったように感じます。また、もともとは実際に高校生をキャンパスに招き2泊3日で開催していましたが、昨年からはコロナ禍の為オンラインでの実施になりました。対面での交流ができず、大学キャンパスの雰囲気も伝わりにくくなってしまった点は残念です。一方、以前は近畿圏からの参加者がほとんどでしたが、オンラインでの実施によって、昨年は関東や九州など遠方からの参加者が増えたことは、嬉しい変化です。
また、昨年は初めて中学生の参加者もいました。社会課題への関心も強く、準備も周到で感心しました。

 

6. FGLCに参加した高校生で、大阪大学を目指す学生も多いとお聞きしました。

はい。もともと、国際公共政策学科を志望していてFGLCに参加してくれる高校生もいますし、FGLCをきっかけに国際公共政策学科や大阪大学に興味を持ち、志望を変更して進学した学生も多くいます。対面での開催の時は、OSIPP棟に丸三日いて、学内の図書館や食堂も利用しますし、3日間を通してサポートの大学生とも親密になり、大学生活についてあれこれ話を聞くことができる機会がありました。参加した学生からは「オープンキャンパスよりも充実していて、学生生活をイメージしやすい」と言われました。

 

7. キャンプに参加する高校生に期待することや伝えたいメッセージはありますか

第一に、大学での学習を知ってほしいです。高校では教科書や先生が絶対的な解を教えてくれて、それを理解して覚えるといった勉強がほとんどだと思います。ですが、大学での学習はそれとは大きく異なり、答えがない問いについて考えたり、そもそもの問いを立てたりするような学びになります。
第二に、実際に社会の問題を解決しようとすると、いかに難しいかを学んでほしいです。そのために求められる能力の水準と現在の自分との距離を感じて、今後どう埋めていくかを考える機会にしてほしいと思います。
第三に、FGLC同窓会のようなものを結成し、今後もお互いに連絡を取り合って課題解決に取り組めるようなネットワークを作ってほしいです。現在は公式の同窓会があるわけではありませんが、各年の参加者同士がグループメールでつながっていたり、サポート役の大学生も含めて、参加者同士の個人的に連絡を取っていたりしているようです。

 

先生の熱い思いと充実したプログラムに、お話を伺うほどに、私も高校生の頃に参加したかった、今回の参加学生の皆さんが羨ましい!という思いが強くなりました。先生のお話にもあった通り、FGLCの運営には学生の皆さんが多く関わっています。
続く第二弾では、運営に携わる大学生の皆さんへのインタビューです。お楽しみに!

 

(OSIPP博士前期課程 中瀬悠)


教授 松繁寿和

学位 オーストラリア国立大学太平洋研究科(Ph.D. of Economics)

研究テーマ
1)  人材育成と教育のあり方
2)  遺伝、家庭、社会
3)  認識、心理、行動

専門分野 教育の経済学、人的資源論、人事労務管理論

代表的な業績
1) 松繁 寿和 編著 (2004)『大学教育効果の実証分析』日本評論社
2) 中嶋 哲夫、梅崎 修、松繁 寿和 共編著(2013)『人事の統計分析 : 人事マイクロデータを用いた人材マネジメントの検証』ミネルヴァ書房
3) Okajima,Yuko, Hisakazu Matsushige and Yuwei Ye (2021) “Do ‘Boss Effects’ Exist in Japanese Companies? Evidence from Subordinate–Supervisor Matched Panel Data”, Asian Economic Journal ,35(1),pp.57-75

参画している研究プロジェクト
1) 『社会的能力の特定化とその育成適正期および教育効果の検証』日本学術振興会:科研費助成事業 基盤(A)(主査)  2) 『ニューロダイバーシティを理解し尊重するデジタル・ウェルビーイング空間の実現』ダイキン工業株式会社 3) 『教員の配置等に関する教育政策の実証に関する研究」における「学級規模等が児童生徒の資質・能力に与える影響」(学力)についての研究』国立教育政策研究所

略歴
1988年9月 南山大学経済学部助手、南山大学オーストラリア研究センター専属研究員(1989年3月まで)
1989年4月 南山大学経済学部講師、南山大学オーストラリア研究センター専属研究員(1994年3月まで)
1993年4月 南山大学オーストラリア研究センター長(1994年3月まで)
1994年4月   大阪大学経済学部助教授(1994年6月まで)
1994年6月   大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授
2001年9月 ドイツ マールブルグ大学日本センター客員教授(2022年2月まで)
2003年4月   大阪大学大学院国際公共政策研究科教授 (現在に至る)