2021.10.14
教員紹介:田所篤助教
2021年9月1日付で国際公共政策研究科の助教に着任された田所篤助教にインタビューを行いました。田所先生は、大阪大学大学院経済学研究科の博士後期課程(博士課程)を今年8月に単位修得退学されました。
現在取り組んでおられる研究内容についてお聞かせください
関税政策が関係各国にどのような利益をもたらすのかについて、理論研究をしています。企業間で生産性が異なるような状況を考慮した理論モデルを用いて、各国政府による関税政策がそれぞれの企業の行動をどのように変化させ、それを通じて関係各国にどのような影響を与えるのかを分析しています。
この研究に取り組むことになったきっかけを教えてください
博士前期課程(修士課程)の学生だった時に、なぜ関税の税率は消費税とは違い、物品によって大きく異なるのかという疑問を持ったことがきっかけです。日本では外国から輸入される農産物に対する関税を高く設定しており、それは自国の産業を保護するためだといわれています。しかし一方で、日本国内の消費者にしてみれば高い関税率は輸入品の価格を引き上げることになるのに加え、日本国内の企業間の競争を緩和させ、それが国内品の価格を上昇させる要因にもなり得ます。私は、最終的に各産業における関税率はどのような水準にあることが望ましいのかということについて興味を持ち、この分野の研究に取り込むことにしました。
この研究の魅力や面白いところはどんなところですか
伝統的な貿易理論モデルは、基本的に各企業の生産性を同一と仮定しているため、全ての企業が輸出をすることを想定した状況のもとで関税政策の効果を分析してきました。しかし、1990年代に企業レベルのデータが入手できるようになり、各産業の輸出企業を調べると、輸出を行う企業は一部の生産性の高い企業のみであることが明らかになりました。この特徴を組み込んだ新しい貿易理論モデルを用いて関税政策の効果を分析すると、関税政策が貿易相手国の輸出企業の行動に与える影響は、各輸出企業の生産性に応じて大きく異なることが最近の研究でわかってきています。このように、現実世界で観察される特徴をモデルに反映することで、今まで知られていなかった政策効果を発見することに、研究の面白さを感じます。
院生時代、OSIPPにはどのようなイメージを持っていましたか
博士後期課程在学中にOSIPPの授業のTAをしていた印象としては、社会に学問をどう実装するかに重点を置く授業の多さを感じました。経済学研究科はどちらかといえば学問的によく使われる経済学の理論を理解するための授業が充実しています。比較すると、OSIPPは現実世界の中でどのような政策が望ましいのかを議論する機会に恵まれているのではないでしょうか。
院生時代、どのような学生生活を送っていましたか
私は修士論文のテーマ設定で悩んだことが記憶に残っています。悩みすぎて大学に行くのを辛く感じた時期もあったのですが、後から考えるとあまり深く考えすぎずにテーマを設定してもよかったと思います。実際に先行研究を読んで執筆を進めていくなかで軌道修正はできるので、とにかくやってみることが大切です。特に博士後期課程に進む方は一本目で自分の希望する分野にぴったりの論文ができなかったとしても、この先も論文を書く機会はたくさんあります。
大学院でこの分野を研究していくためには、どういった勉強をしておく必要があると思いますか
現実世界の貿易構造は時代によって大きく変化するため、国際貿易の理論研究で扱うモデルもそれに順応するように変化します。国際貿易の分野を研究していくには、日頃から世界の貿易構造に目を向けておくことが重要です。また、このような時代の変化に対応できるよう準備しておくために、大学院のコースワークで習うマクロ・ミクロ経済学等の勉強をして経済学の基礎をしっかりと固めておくことが大事だと思います。
最後に、学生へのメッセージをお願いします
研究に限りませんが、学生のみなさんには世の中のあらゆる事柄で疑問を持ったことや不思議だと感じたことについて、なぜそうなのかを自分で調べ、考え、そして自分なりの考えを臆せずに発信する習慣を身に着けて欲しいと思います。自分の考えを磨き上げて行くためには人に発信することが一番の近道になることが多いです。間違ったことを言ってしまっていたらどうしようと考えるのではなく、むしろ自身の認識不足や認識の誤りを教えてもらうためという心持ちで、自分の考えをどんどん発信して下さい。
(OSIPP博士前期課程 岡春陽)
助教 田所篤 (たどころあつし)
学位:博士(経済学)(大阪大学)
研究テーマ:企業間で生産性が異なるフレームワークのもとでの関税政策の効果の理論分析
専門分野:国際貿易、産業組織論
代表的な業績:
Tadokoro, A. 2020. “Tariff policies, variable markups, and within-sector misallocation.” Discussion Papers in Economics and Business 20-16, Osaka University, Graduate School of Economics.
Tadokoro, A. 2021. “Efficient policy with firm heterogeneity and variable markups.” Discussion Papers in Economics and Business 20-17, Osaka University, Graduate School of Economics.