【卒業生近況】千々和泰明さん/防衛省防衛研究所 勤務
2022.7.27
【卒業生近況】千々和泰明さん/防衛省防衛研究所
2007年にOSIPP博士後期課程を修了(国際公共政策博士)された千々和泰明さんを取材しました。千々和さんは現在、防衛省防衛研究所に戦史研究センター安全保障政策史研究室主任研究官として勤務され、多数の学術研究・書籍を出版、各種メディアに出演されるなど多方面で活躍されています。
なぜ防衛省防衛研究所(以後、防研)に勤務しようと思ったのですか?
防研を知ったきっかけは、OSIPP生だった時にリフレッシュルーム(院生室の共有スペース)で手に取った防研のパンフレットでした。その後、京都大学でポスドクとして「戦後日本の防衛構想」をテーマとした研究に着手していた頃、防研から「戦後日本の安全保障政策史」の分野での研究者の公募が出たので、迷わず応募しました。防研が実施している防衛政策史に関するオーラルヒストリー・プロジェクト(実務者への聞き取り調査)に貢献したいという思いもありました。
現在の仕事内容とその魅力や面白いところ、大変なところを教えてください。
防研は防衛省のシンクタンクです。私は、専門の防衛政策史・戦争終結論の研究と、それに関連した政策ニーズへの対応や、幹部職員への教育などを担当しています。また、前述のオーラルヒストリーにも力を入れています。
2011年には、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査として内閣官房に出向し、総理官邸での実務も経験しました。主として担当したのは、政府において総理を中心とする安全保障政策の「司令塔」となる日本版NSC(国家安全保障会議)創設です。仕事の内容は、上司である官房副長官補が総理や官房長官に説明する際の資料づくりや、関係省庁との調整、国会対応、官邸危機管理センターでの事案対処(地震や北朝鮮関連)などで、研究者としての知見が必要とされた場面も少なくありませんでした。この出向後は防研に戻り、NSCの成立史を書きましたが、研究を実務に生かし、また実務経験を研究活動に生かすという好循環がつくれるのは、防研ならではの魅力だと思います。
ただ、防研の研究者は国家公務員ですので、部外の学術誌や学会などで発表する場合は事前に届け出なければならないなどの制約があります。また、おそらく大学の研究者とはちがって想像以上に「組織人」としての仕事の進め方や振る舞いを求められる場面が多く、その点についての大変さを感じることがあります。
個人の研究活動としては、特に昨年から今年にかけて、「基盤的防衛力構想」に関する学術書『安全保障と防衛力の戦後史 1971〜2010―「基盤的防衛力構想」の時代』(猪木正道賞受賞)と、戦争終結論と防衛政策史をそれぞれテーマにした新書『戦争はいかに終結したか―二度の大戦からベトナム、イラクまで』と『戦後日本の安全保障―日米同盟、憲法9条からNSCまで』を刊行できました。ロシア・ウクライナ戦争が起こってからは、メディアでの解説の機会もいただいています。
つい先日は、OSIPPで「戦争終結論とウクライナ戦争への示唆」について講演させていただき、卒業生としてとても名誉に感じています。
防研に勤務を希望する場合、学生時代にどんな準備をしておくとよいですか?
防研の場合、募集分野が年によって「戦略・政策」とざっくりした場合もあれば、具体的に指定されている場合もあり、また既に一定の研究業績を挙げている人を採用する場合もあれば、業績は少なくても「可能性」を評価して採用する場合もあります。したがって「時の運」的な要素もあり、特別な事前準備というのはなかなか難しいかもしれません。研究者をめざす道のなかで日々しっかりがんばっていただくということに尽きるのではないでしょうか。
ただ、試験がありますので、語学は勉強しておきましょう。募集分野の基礎についても、試験前に洗い直しておいた方がよいでしょう。
なお、防研の研究者には、レポート出版や各種プロジェクトを遂行するにあたり研究能力とともに、協調性やコミュニケーション能力も求められるように感じています。
OSIPPではどんな学生生活でしたか?
当時は「戦後日米関係における大使の役割」という研究テーマに取り組んでいました。出身学部や専門、年齢や国籍が様々で、かつ能力が高い周囲のOSIPP生からとても大きな刺激を受けていました。ちょうど博士前期課程(修士)1年の時に9・11テロが起こり、アフガニスタン戦争やイラク戦争につながっていくという時代背景もあって、国際公共政策について学び、議論することに非常にリアリティがあったことを覚えています。夜な夜な石橋の居酒屋で、「政策研究とは」といったことについて仲間たちと議論を戦わせていました。
OSIPP在学生及び入学を検討している学生へのメッセージをお願いします!
5月に刊行した拙著『戦後日本の安全保障』の「あとがき」に、自分が大事にしてきたスタンスとして「研究を、趣味としてではなく、問題意識とつながったものとして位置づけること」と書きました。OSIPP時代に取り組んだ大使に関する研究も、歴史研究ではありましたが、当時の外務省改革という政策課題への貢献を意識したものでした。最近取り組んでいる戦争終結論も、内閣官房勤務を通じ、これからの日本の安全保障政策における「出口戦略」の重要性に気づいたことが、この研究に着手したそもそもの始まりです。(写真:千々和さん(左)と筆者)
私自身は、上述のスタンス「自身の研究と解決すべき政策課題をつなげる」という点でどこまで成功できているかは分かりませんが、OSIPPでの経験がこうした考えの下地になったことはまちがいありません。そうした意味で、政策志向の大学院の先駆け的存在だったOSIPPの門を叩いてよかったと思い返しています。
私の専門分野で言うと、ロシアのウクライナ侵略や中国の軍事的台頭などが焦点ですが、国際情勢の変化を的確に分析し、そのなかで日本がどうすべきなのかを真剣に考えていかなければならないのは、他の研究分野でも、民間企業などでも同様でしょう。そうしたなかで、「長期的視野に立ち、社会のニーズを踏まえて、知恵をしぼる」という “OSIPP的思考” がますます必要とされると思っています。皆さんがOSIPPで大いに成長され、広く社会で活躍されることを願っています。
(OSIPP博士後期課程 平野歩)